「ダメ。ゼッタイ。」の限界 市販薬過剰摂取の実態は

女子高生が倒れた状態で見つかった滋賀県守山市のアパート=昨年12月14日、滋賀県守山市(本社ヘリから、永田直也撮影)
女子高生が倒れた状態で見つかった滋賀県守山市のアパート=昨年12月14日、滋賀県守山市(本社ヘリから、永田直也撮影)

市販のせき止めや風邪薬、処方された睡眠導入剤などを過剰摂取(オーバードーズ)し、依存してしまう若者が増えている。不安やいらだちが解消される錯覚に陥るというが、内臓へのダメージは大きく、過剰摂取とみられる薬物中毒で高校生が死亡する事件も起きている。「購入は1人1箱」とする国の規制も抜け道が多く、歯止めにはなっていない。

1日30錠、強い酒で

昨年12月、滋賀県守山市のアパートの一室で、19歳の女子高校生が死亡しているのが見つかった。司法解剖で判明した死因は薬物中毒。抗不安薬や睡眠導入剤を大量に使用した痕跡があった。いずれも市販のものや医師の処方箋があれば入手可能な薬物だった。

現場のアパートは30代男の自宅。会員制交流サイト(SNS)を通じて女子高生と知り合い、部屋に連れ込んだ。「(女子高生とは)オーバードーズ仲間だった」。男は滋賀県警の調べにこう供述した。

県警は、過剰摂取目的で知り合った別の20代女性に対する準強制わいせつ容疑で男を逮捕しており、女子高生が死亡した経緯も慎重に調べている。

若者たちはなぜ過剰摂取に走るのか。「睡眠導入剤を服用すると、言いたいことが言えた」。過剰接種の経験がある女性(33)がその理由を明かす。

きっかけは人間関係の悩みに端を発した不眠症だった。医師の指示通り服用していたが、悩みは解決しない。「何も考えたくない。寂しさを感じたくない」。昼夜を問わず薬を飲むようになり、1日で30錠ほどをアルコール度数の高い酒で流し込んだこともある。

過剰摂取を機にトラブルも増えた。喜怒哀楽が激しくなり、友人との約束も破るように。生活が乱れる中、親の勧めもあって、薬物やアルコール依存などに悩む女性を支援する一般財団法人ワンネスグループ傘下の奈良県の施設「フラワーガーデン」に入所した。

苦しみながらも、スタッフや仲間に支えられ、次第に薬物と距離を置くことができるようになった。昨年10月からは施設スタッフに転身、「ここに来てよかった」と語る。

自由手にした気分

「過剰摂取により感情や理性のコントロールが外れる。ストレスもなくなり、自由を手に入れたような気分になる」。近畿大薬学部の細見光一教授(医薬品情報学)は依存の背景をこう解説する。

違法薬物ではないといっても、大量に服用すれば心身への弊害は大きい。「体は異物が入れば尿や便として排出しようとするが、内臓には大きな負担がかかる。肝臓や腎臓に障害を及ぼす可能性がある」(細見教授)。薬には依存性があり、中枢神経に影響を与えることもある。

厚生労働省研究班の令和2年の調査によると、薬物依存などの治療を受けた10代患者が最も使用した薬は「市販薬」(56・4%)だった。平成26年の調査では市販薬はゼロだったが、その後急増した。一方、同年の調査で約5割を占めた「危険ドラッグ」は30年調査からはゼロに。規制強化が影響したとみられる。

「支援の対象に」

厚労省は26年、市販薬などに含まれる成分のうち、依存しやすい6種類を「乱用のおそれがある医薬品の成分」に指定。薬局などが販売する際は原則1人1箱(1本)とし、状況に応じて氏名や年齢、購入理由の確認を義務付けた。

だが規制の効果には疑問符が付く。厚労省が毎年実施している覆面調査によると、ルールを守っていた店は73・3%(令和2年度)。厚労省医薬・生活衛生局の担当者は「複数の店を回ったり、インターネットを使ったりすることで、複数購入が簡単な環境がある」と話す。

国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部の松本俊彦部長は、長引くコロナ禍の影響を指摘する。在宅時間が長くなったことで夫婦や家族間の衝突が増え、しわ寄せが子供に行く家庭もあるとし、「生きづらさや心の痛みを抑えるため、市販薬を乱用する若者が増えた」とみる。

「ダメ。ゼッタイ。」と薬物乱用防止を呼びかける標語は有名だが、松本氏は薬物の負の側面を強調しすぎすることで、逆に相談や治療の機会を遠ざけてしまうとし、「市販薬を含む依存者を犯罪者のようにみるのではなく、何か困りごとを抱えている人と位置付け、支援の対象にしていくことが必要だ」と訴えている。

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