「いつもと同じように一日を終えて、眠るように逝ったと思います」
大阪府高槻市の大川静子さん(88)=仮名=は令和2年の夏、63歳の長男が介護施設で迎えた穏やかな最期をこう語った。
長男は40代のとき、多発性脳梗塞を発症した。老衰のように体の機能を失っていく長男の介護を大川さんは一人、自宅で続けた。だが排泄(はいせつ)にも介助が必要になり、そしてデイサービスの利用も困難になった。
亡くなる前日、家族を驚かせた表情
在宅介護が限界を迎え、長男は元年10月、高槻市内にある「みどりケ丘介護老人保健施設(老健)」に入所した。「自分が看るべきでは」との葛藤もあったが、人と話すのが好きだった長男は、スタッフや他の利用者との交流を喜んだ。面会に行って親子で一緒にコーヒーを飲み、安らかな時間を過ごした。
次第に食事が取れなくなったとき、延命措置をせず、なじんだこの施設で看取(みと)ると決めた。長男の好きなケーキや和菓子を買い、クリームやあんを少し食べさせた。施設のスタッフから鰻(うなぎ)を食べたがっていると聞き、うな重を作って持っていった。「ほら、いいところの鰻よ」。長男はうれしそうに一口食べた。