今なお収まらないコロナ禍は、日本人の死生観にも深く影響を与える。すべての団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年問題を目前にし、日々平均して4千人近くが亡くなる多死社会となった今、最期を迎える場所を病院から自宅へ移そうとする動きが緩やかに広がる。新生在宅医療・介護元年から10年となる今年、在宅死の課題を考える。
余命宣告に「しゃあない」
「あの人らしい最期を支えられたのかな。長く連れ添ってきた中でこれが一番良かったと思うんです」
昨年7月、2008年にノーベル物理学賞を受賞した益川敏英さんは、81歳で生涯を閉じた。最期の場所に選んだのは、京都市内の自宅マンションだった。
市内を一望でき、同じ物理学者のアインシュタインを思わせるような舌を出した益川さんの写真が出迎える居間。数カ月前に夫を看取ったその場所で、妻の明子さん(78)は穏やかに振り返った。