坂東玉三郎が踊る「潮来」の藤娘、漂う詩情

「藤娘」を踊る坂東玉三郎=大阪市中央区の松竹座ⓒ松竹
「藤娘」を踊る坂東玉三郎=大阪市中央区の松竹座ⓒ松竹

大阪松竹座で23日まで、坂東玉三郎初春特別舞踊公演が行われている。

坂東玉三郎の「藤娘」はこれまで何度も見てきた。そのたびに藤の花の精とも見える可憐(かれん)な娘の恋心の踊りにうっとりさせられたものである。だが今回、玉三郎は新たな取り組みをしている。7歳のとき以来という、「潮来出島(いたこでじま、通称「潮来」)」で踊っているのだ。

しっとり、余情を残す

これが実に新鮮で、玉三郎ならではの美の世界を作り上げている。ちなみに「潮来」とは、「藤娘」の2種類ある踊り方のうちのひとつ。歌舞伎の場合、ほとんどはもうひとつの「藤音頭」で踊られる。その方が華やかだからだ。玉三郎も長らく「藤音頭」で踊ってきた。今回は何か新しいものを、ということで「潮来」にしたのだという。

いつも通り、松の大木に大輪の藤の花枝が巻き付いた舞台。黒の塗り笠をかぶり、藤の花房を持った藤娘(玉三郎)が黒、黄、赤など次々と衣装を替えながら女心を踊る。ドラマがあるわけではない。ただただ、風情で見せる踊りが、玉三郎が勤めると情緒や詩情のような目に見えぬものが描き出されるように思える。

眼目の「潮来」では、背景が、八つ橋にあやめが咲き乱れる装置に変わる。「藤音頭」に比べて一見、地味な踊りながら、白地に藤の文様の衣装を身に着けた玉三郎は、しっとりと、のどかに踊って橋の上でたたずんで幕。余情の残る舞台となった。

もう1曲は、玉三郎ふんする芸者が、江戸の山王祭を背景に踊る「お祭り」。ほろ酔い気分のなかにも、小股の切れ上がった江戸の芸者らしい、粋ですっきりした風情。女形のひとり立ちの「お祭り」は珍しいが、若い衆との立ちまわりや獅子舞も登場、正月気分に浸れた。

玉三郎が豪華な舞台衣装を着て自ら紹介する、お年賀「口上」も。23日まで。(亀岡典子)

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