日本の原風景と呼ばれる美しい棚田を、ふるさと納税で応援しようと、仲介サイト「さとふる」は19日、新潟、山梨など全国6府県の棚田11カ所をインターネット上で紹介する「棚田特集」を始めた。返礼品には棚田でとれたお米のほか、米作りを体験できる「棚田オーナー制度」の権利も盛り込んだ。背景には、農山村の人口減少や高齢化により耕作放棄される棚田を何とか守りたいという、地域の人々の強い思いがある。
返礼品は「棚田米」
雄大な富士山の真正面、南アルプスのふもとに、大小300枚の棚田が並ぶ。特集で紹介されている棚田の一つ、山梨県富士川町の「平林の棚田」。
江戸時代から続く棚田を守ろうと、地区の全戸が参加して平成14年、地域運営組織「平林活性化組合」を作った。オーナー制度で都市住民にも棚田の維持に参加してもらうほか、町への寄付の返礼品として「棚田米」を出荷している。
4代目組合長の元会社員、中込広男さん(74)は「棚田米は収量が少ないので、スーパーなどに出荷するのは難しい。ふるさと納税は少量でも定期的に出荷できるので、助かっている」と話す。
この景観は守りたい
さとふるは、ふるさと納税の返礼品の紹介や業務代行などで自治体と利用者を仲介する一方、地域活性化を目指すさまざまな特集をサイト内で企画している。
今回の特集を企画したのは、サイトを運営する「さとふる」経営戦略室の渡辺葉子さん(29)。渡辺さんは新潟市出身。国土交通省のキャリア官僚だったが、「地域の活性化にかかわる仕事がしたい」と1年ほど前に同社へ転職した。
きっかけの一つは、同省国土政策局時代に長野県の山里で、地域づくりの話し合いにかかわったことだったという。人口減少と高齢化が進む集落で「10年後に残したいもの」を尋ねた。
「そりゃあ、棚田だ」
「この景観は守りたい」
天まで届くような棚田。きれいな湧水が育む、おいしいお米。
「棚田が地域の誇りであることを実感しました」
一方で、農家の高齢化や担い手不足のため、各地の棚田が荒廃の危機に直面している現実も知った。
転職して初めて自分で一から手がける企画に、「棚田の応援」を選んだ。
私たちにできること
ふるさと納税をめぐっては、「返礼品合戦」ばかりが注目されるが、目的は地域の活性化だ。
渡辺さんは「美しい棚田を未来へつなぐために、私たちにできることの一つが、棚田米を食べること。実際に棚田を訪れて、農作業を手伝うことで、地域の人たちを応援することもできる。特集がそのきっかけになれれば」と願う。
■特集で紹介されている棚田 【新潟県】小千谷市「佐藤農場の棚田」「外之沢の棚田」▽十日町市「まつだいの棚田」「池谷・入山の棚田」▽佐渡市「岩首昇竜棚田」▽阿賀町「越後ファームの棚田」【山梨県】富士川町「平林の棚田」【京都府】福知山市「毛原の棚田」【岡山県】美作市「上山棚田」【高知県】津野町「貝ノ川の棚田」【長崎県】松浦市「土谷棚田」
■ふるさと納税 名前は「納税」だが、実際は応援したい自治体に寄付する制度。寄付が上限額を超えなければ、自己負担分2千円を除いた額が所得税と住民税から控除される。平成20年度から始まり、制度の利用者数といえる控除適用者は令和3年度課税分で約552万人と過去最多。