大阪出身の監督 つらい虐待経験も映画に ロングラン「ひとくず」

大阪を舞台に描いた映画「ひとくず」の脚本、主演、監督を務めた上西雄大さん=13日、大阪市中央区(南雲都撮影)
大阪を舞台に描いた映画「ひとくず」の脚本、主演、監督を務めた上西雄大さん=13日、大阪市中央区(南雲都撮影)

空き巣犯が母親やその恋人から虐待される少女を救い出し、親子のような絆が生まれる様子を大阪を舞台に描いた映画「ひとくず」。脚本、主演、監督を務めた上西雄大さん(57)も母親に暴力をふるう父親から逃れるため、一度故郷・大阪を捨てた過去がある。その大阪を舞台に映画を作り続ける理由を「つらい思いをしたからこそ、自分にしか作れない物語がこの街にはある」と話す。(南雲都)

年が明けたばかりの今月2日、公開から1年を超えてもロングランが続く「ひとくず」上映後の舞台あいさつをするため、上西監督は大阪・十三(じゅうそう)の映画館「シアターセブン」にいた。児童虐待を扱った重い映画とは裏腹に、あいさつでは軽快なトークで観客の笑いを誘った。

年末年始を問わず、上西監督は舞台あいさつを欠かさない。児童虐待について来場者に話し、児童相談所虐待対応ダイヤル「189(いちはやく)」の番号をあしらった缶バッジを作り配布したこともある。

大阪を舞台に映画を作り新作の「西成ゴローの4億円」が公開される上西雄大さん=13日、大阪市中央区(南雲都撮影)
大阪を舞台に映画を作り新作の「西成ゴローの4億円」が公開される上西雄大さん=13日、大阪市中央区(南雲都撮影)

背景には自身の体験がある。大阪・十三で育った上西監督は、父親が母親に手をあげる姿を毎日みていたという。母親を助けるため父親を殺そうと包丁を手にしたこともあったほどの息苦しい生活のなか、心が休まるのは、祖母が父親の目を盗んで連れ出してくれる映画を見ている時間だけだったという。

「生きるすべはすべて映画から学んだ」(上西監督)というが、父の暴力は止まらず、高校卒業と同時に母と家を飛び出した。

そんな嫌な思い出しかない地だが、上西監督は「自分にしか作れない」と大阪にこだわっている。「ひとくず」も精神科医から児童虐待の現状を聞き、自身の経験を重ね、怒りをぶつけた。一晩で脚本を書き上げ、主宰する劇団「テンアンツ」の役者たちとともに手作りで作り上げた。

海外の映画祭で評価されたこともあり、令和2年3月の公開後、口コミで評判が広がるなどして注目を集めた。

新型コロナウイルス禍で上映が中断したこともあったが、SNSでは作品を何度も鑑賞する「おいくず」という言葉も生まれるなど、熱心なファンに支えられてきたと振り返る。

「大嫌いで捨てたはずの十三に自分を支えてくれる人たちが集まってくれる。一本の映画で人生が変わった。今は故郷だと胸を張って言える」

大阪を舞台にした映画の公開はまだ控えている。29日からシアターセブンと同じビルにある第七藝術劇場で上映される新作「西成ゴローの四億円」は大阪・西成が舞台で、元政府諜報部員が西成に身を隠し、病気の娘のために大金をかせぐアクションを多用したエンターテインメント作品となった。「ひとくず」がつないだ縁で、奥田瑛二さん、加藤雅也さん、津田寛治さん、笹野高史さんら多くの尊敬する俳優たちが参加してくれたという。

そんな中で堂々と主役を演じるが、テレビドラマにはあまり呼ばれないという。「監督もやるからめんどくさいと思われているのかな。使いやすい役者だと思うんだけど」と苦笑した。

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