ものづくり、千里眼で活性 大阪産技研が電子顕微鏡リモート提供

金属やセラミックなどの物質成分を精緻に分析できる電子顕微鏡を、リモート(遠隔)で使えるサービスが始まった。新型コロナウイルス禍の中小企業を支援しようと、地方独立行政法人「大阪産業技術研究所」(産技研、本部・大阪府和泉市)が手法を考案。従来と異なり研究所を訪れなくてもよく、遠方の企業でも使いやすくなった。産技研は「公的機関ならではの技術力を提供し、ものづくりを後押ししたい」としている。

「クリックすると物質の表面が映りますよ」

昨年12月9日、会議用ビデオシステムを接続したパソコン画面を前に、産技研の職員が電子顕微鏡の利用を希望する企業の社員に操作方法を説明した。

この日は、サービスの開始を前に行われた利用者向けの講習会。試料としてスズが用意された。参加した社員が画面の向こう側でマウスのカーソルを動かすと、スズの表面が白黒でパッと映し出され、10分ほどで元素などの詳細な数値が一覧で画面に表示された。

仕組みはこうだ。企業側から送付された試料を職員が電子顕微鏡にセット。企業側は指定のビデオシステムに接続した上、産技研が開発した専用のネット回線にログインすれば、遠隔操作が可能になる。

この電子顕微鏡は、特殊な光性能を備える電界放出形電子プローブマイクロアナライザと呼ばれるもの。物質を局所的に調べられるだけでなく、金属やプラスチックといったあらゆる材料を分析できる。企業が製造した物質や調べたい物質の元素分析などが可能だ。

企業にとっては、より精度の高い情報を得られ、製品の開発や改良に生かせられるメリットがある。

ただ、こうした電子顕微鏡は数千万円以上と高額なため、所有するのは産技研のような公設の試験研究機関(公設試)や大企業、大学などに限られる。これまで中小企業が使用を希望する場合は、産技研和泉センターまで出向く必要があった。

全国に100以上ある公設試でリモート分析を始めたのは産技研が初めて。画面越しだが、実際に操作することで企業側のスキルアップにつなげる狙いがある。実際のサービスは1時間1万円で利用できる。

工学博士の平田智丈(ともたけ)・産技研微細構造評価研究室長は「企業や幅広い利用者に装置を使ってもらう機会を提供し、ものづくりを活性化して豊かな社会を実現できれば」と話す。春には、別の電子顕微鏡のリモート分析も始める予定という。

企業の研究開発支援、相談年7万件

大阪府と大阪市が平成29年4月に共同で設けた大阪産業技術研究所(産技研)は、主に中小企業の研究開発や事業化を支援する公設の試験研究機関(公設試)だ。

かつて府と市はそれぞれ、公設試を有していた。機械や加工、金属などを中心とする研究や製品の開発支援に強い府立産業技術総合研究所(同府和泉市)と、化学やバイオ、食品分野に明るい市立工業研究所(同市城東区)だ。

一体運用することで業務の効率化や企業への支援強化を図ろうと、府市は両研究所を統合。全国でもトップクラスの規模を誇る産技研が誕生した。

産技研は職員269人を擁し、予算規模は年間億円。中小企業などから毎年約7万件の技術相談を受けており、現在は和泉センター、森之宮センターの2拠点体制で運営する。

統合に伴い、サービスや顧客のデータを一元化するなど利便性が向上。令和2年度の事業収入額は全国の工業系の公設試の中で1位、特許収入も2位という。

産技研はSDGs(持続可能な開発目標)の実現に向けた海洋プラスチックごみ削減に関する研究や、2025年大阪・関西万博での技術支援なども担う。(北野裕子)


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