極限状況下の人間描く 「ブラックボックス」で芥川賞の砂川文次さん

芥川賞に決まった作家の砂川文次さん
芥川賞に決まった作家の砂川文次さん

戦場を舞台にした小説をいくつも書いてきた元陸上自衛官。極限状況下の人間を見つめる作品の重みと好対照な、爽やかで人懐っこい笑みをよく見せる。第166回芥川賞を射止め、19日の記者会見では「よく分からないまま、あれよあれよという間にここに来ているので困っています」と飾らない口調で語った。

受賞作「ブラックボックス」の主人公は、自衛隊員や不動産営業などの職を転々とした末、東京で自転車便専門の歩合制メッセンジャーとして働く男性。30歳も目前で、同棲相手もいる主人公は「ちゃんとしなきゃ」と思いつつも、感情の暴発を抑えられずに転落する。舞台こそ戦場ではないが「制度や集団と個人、というテーマは変わらない」。どん底からの出口を希求するそんな主人公の複雑な内面は題名とも響きあう。「社会から逸脱してしまい、ネットで『終わりだよね』といわれた人であっても、当然人生は続く。それって外の人には見えないですよね。若い人たちの焦燥感を掘り下げたかった」

創作を始めたのは、ヘリの操縦などに従事した現役自衛官のころ。「小説は何かを発見するための手段。書くことで考えが深まる」。鍛えた肉体で、現在勤務する都内の区役所へも自転車で通う。思い立ってロードバイクで往復100キロを走ることも。趣味で2台持っている自転車への愛が受賞作の描写にいきた。

平日は夜9時前に就寝し午前2時半ごろから出勤まで書き、職場での昼休み中も原稿に向かう。「朝たっぷり食べているから昼食抜きでも平気」。そうやって休日に2人の子供と遊ぶ時間を捻出する、良き父親でもある。(海老沢類)

会員限定記事会員サービス詳細