シネマのまちのつくり方~なら国際映画祭

①若手監督を発掘、メジャーデビューへの道

村瀬にさらなる映画制作の機会を与えたのは、同映画祭のプロジェクト「ナラティブ」だ。映画祭受賞者から監督1人を選出し、翌年に県内のロケ地で撮影を行う。

「学校を出たばかりの若手では集めるのが難しい資金」(映画祭関係者)を投入して海外に羽ばたく監督になってもらいたいと願う。村瀬は受賞後、ロケ地に内定していた川上村を何度も訪れて案を練り、20年10月末の締め切り間際に脚本を提出し選ばれた。それが『霧の淵』(仮題)だ。

◆9月公開を目指して

村瀬は21年3月に渡仏して映画修行する予定だったがコロナ禍で断念。小学校で任用会計年度職員を務めて脚本を練ってきた。1次オーディションの時点で第7稿。その後、電話して確認すると、11月8日に第8稿を書き上げ映画祭理事が手を入れているところだという。ゴールは第何稿かと尋ねると「それは僕が一番知りたい」と苦笑しながら言った。

2次オーディションは12月11日にホテル尾花で行われ、主人公候補の女子3人と同級生候補の男子3人が参加した。

村瀬は、1次の際に「この子かも」と感じた候補がいたが、2次での硬い表情や演技を見て「僕が演技指導できるだろうかと少し迷った」と打ち明けた。最終的には演技力より「古い旅館にたたずむ姿を思い描くことのできる少女を起用したい」と言う。

川上村での撮影は3月下旬から予定される。9月の映画祭での公開が楽しみである。

◆幸運な監督

自治体文化政策の研究者である筆者からみるとき、映画祭にはいくつかの類型があるように思える。

①世界各国から著名監督の作品が寄せられて競い合い、買い手も集まるビジネス型②若手監督を表彰する育成型③日ごろ見る機会のない外国映画などを上映する鑑賞型④受賞監督に映画制作の機会を与える「つくる映画祭」⑤地域振興を主眼とするまちづくり型―などを思いつく。

なら国際映画祭は②③④⑤に相当するのではないか。筆者が同映画祭に関心を持った理由の1つに「ナラティブ」プロジェクトがある。映画祭は2年に1度、9月の数日間に開催される。国際コンペティション部門と学生部門が設けられ、競い合いを経て複数の賞が与えられる。受賞者から選ばれた監督が端境年の翌年に奈良県内で撮影を行い、作品に仕上げて、次の映画祭で初公開するという仕組みである。

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