文字盤やケース、針などを自由に組み合わせ、自分好みの腕時計を作るカスタマイズサービスが広がっている。パーツの組み合わせを楽しんでもらうことで、新たな顧客層を開拓する狙いだ。スマートフォンやスマートウオッチの普及で腕時計離れが進む中、〝自分だけの腕時計〟によって、市場の縮小に歯止めをかけたい考えだ。
パーツ組み合わせ自由
シチズン時計の子会社、シチズンリテイルプラニング(東京都新宿区)は昨年12月、世界に一つしかない腕時計を提供するサービス「時計工房マイクリエーション」を始めた。パーツを選ぶだけでなく、文字盤にペットや子供の写真、イラストなども入れられる。
注文はオンライン上で行え、選んだパーツの組み合わせや画像を取り込んだ文字盤をパソコンなどの画面上で確認できる。同社オンタイム事業部の伊藤博史事業部長は「利用者が組み合わせを楽しみながら、デザインを決められるのも大きな特長」と説明する。
注文を受けた腕時計は熟練技能者が丁寧に組み上げる。価格は1万6500円(税込み)。注文から3週間以内で商品が手元に届く。文字盤はペットのプリントが一番多く、子供や車も目立つという。
カスタマイズサービスの需要が高まり、同社は数年前から事業化を検討してきた。文字盤の印刷精度や著作権侵害への対応が課題だったが、高精度プリントに対応できるようになったほか、著作権についても人工知能(AI)で簡単に調べられるようになり、事業化に踏み切った。
伊藤氏は「特に若年層の腕時計離れが進んでいる。このサービスで腕時計の魅力を再認識してもらいたい」と大きな期待を寄せる。
「G―SHOCK」も自分好みに
カシオ計算機も昨年10月に人気ブランドの耐衝撃腕時計「G―SHOCK」のカスタマイズサービス「MY G―SHOCK」を始めた。文字盤や額縁、ベルトなど約190万通りの組み合わせで、自分好みのG―SHOCKを作ることができる。価格は1万5400円(同)から。
カスタマイズサービスの参入理由について、同社広報は「G―SHOCKファンへの新たなユーザー体験の提供と新規顧客を開拓するのが狙い」と説明する。新サービスの評判はSNSで広まり、販売は好調だ。
新サービスは思わぬ〝副産物〟をもたらしている。サービス開始から約1カ月間で約20万人が専用サイトを閲覧しており、「顧客の動向を探ることができ、データの活用で新商品の開発に生かせる」(広報)のだという。
出荷個数減…歯止めに期待
腕時計の販売は二極化している。高級品が売れる一方、スマホの普及で1万~3万円程度の普及価格帯は年々減少傾向にある。日本時計協会によると、令和2年の国内メーカーの腕時計出荷個数は4430万個。日本で「アイフォーン」が発売された平成20年から37%減少している。市場の回復には新たな顧客を開拓することが不可欠で、各社ともカスタマイズサービスに期待している。(黄金崎元)