永遠の生、希求する呪文 古代エジプト展 死と再生の物語㊤

ネスナクトの『死者の書』(部分)グレコ・ローマン時代、プトレマイオス朝(前304~30年ごろ)、パピルス=ライデン国立古代博物館Image©Rijksmuseum van Oudheden(Leiden, the Netherlands)
ネスナクトの『死者の書』(部分)グレコ・ローマン時代、プトレマイオス朝(前304~30年ごろ)、パピルス=ライデン国立古代博物館Image©Rijksmuseum van Oudheden(Leiden, the Netherlands)

古代のエジプトでは、人々は死後に永遠の生を得ることを願い、それを確実にするための呪文を墓に用意した。『死者の書』とは、永遠の生を得るまでに待ち受けるさまざまな試練や困難を乗り越えるための呪文につけた現代の総称で、当時は「日のもとに出るための呪文」と呼ばれた。研究者間で見解の相違はあるものの、これまでに160以上の呪文が知られており、一部のピラミッドや木棺に記された呪文等が起源とされる。

このパピルスには、『死者の書』で最も有名な「心臓の計量」の場面が描かれている。物事を考える(とされた)心臓と、真実をあらわす女神マアトの形をした重りを秤(はかり)にかけ、死者が生前に正しい行いをしたかを判断する、来世で永遠の生を得るためのクライマックスである。

このパピルスは文明末期のプトレマイオス朝に制作されたため、典型的な構図とはやや異なり、心臓は秤の中央に座る葬祭の神アヌビスが手にし、秤には死者の身体が描かれている。秤の左側にいるアメミトという名の怪物は、真実のマアトよりも心臓が重い場合、その心臓を食べてしまうために永遠の生はかなわない。

そうした危険を避けるべく、ミイラにはフンコロガシをかたどった心臓スカラベと呼ばれる護符が供えられた。そこには「心臓の計量」の場面で死者の利益にそった発言をするよう呪文が刻まれている。フンコロガシは糞(ふん)を転がす様子が太陽の運行に類似するとされ、再生復活の象徴であった。(中部大学教授 中野智章)

「ライデン国立古代博物館所蔵 古代エジプト展」の見どころについて、監修者の中野教授に全3回で解説してもらった。同展は、神戸市中央区の兵庫県立美術館で2月27日まで。

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