話の肖像画

真矢ミキ(15)女優として、助けられた宝塚での経験

平成27年ごろ
平成27年ごろ

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《平成15年公開の映画「踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」で、上昇志向の強い警察官僚、沖田役を演じ、39歳にして女優として新たな道が開けた》


私もこのシリーズを見ていましたが、自分が出演するまでは、もちろん現場を知り尽くす所轄署の捜査員、青島(織田裕二さん)を応援していました。

ですから所轄と敵対するキャリア官僚のどこに共感していいのか、なかなか人物像がつかめなかった。特に沖田の失言をきっかけに、大勢の男性から怒号を飛ばされる場面は、その怒りの方が理解できるだけに、撮影中、不安も募りました。

しかし理解の端緒になったのは、宝塚での経験でした。この映画には、警察における組織論というテーマもある。タテ社会の正義もあれば、それがときとして理不尽にも映る。非情な選択を迫られたり、自分のいいタイミングで動けなかったりと、立場が上になればなるほど、もがくというか…。その構図が、自分が花組トップになった当初、焦りが先に立って空回りしていた頃と重なり、私には沖田がただの悪役ではなく、一人の悩める人間と映ったんです。


《役に徹するあまり撮影直後、緊張感で涙がこぼれるほどのめりこんだ》


沖田を演じたことは、確実に女優として突破口になりました。それからは映像でのお芝居の仕事が、コンスタントにいただけるようになりましたから。ただ良くも悪くも、沖田役は強烈な印象を残したようで、いまだに男性からは、怖がられます。「普段も、ああなんですか?」って(笑)。

人の持つ固定概念に日々、それはそれは鍛えられます。そういうイメージを抱かれるリスクもある、と分かっていましたが、やはり通るべき道だったと思います。どん底まで落ちた末、沖田役で一歩を踏み出していなかったら、今の私は随分、違うところにいたと思います。


《宝塚のトップスターから失業者に。さらに映画のオーディションでチャンスをつかんで大ブレーク…と、30代は波瀾(はらん)万丈だった》


今だから言えますが、どん底を経験するのも悪くないなと。「どん底」と落ち込んでいるうちはまだマシで、どん底にはさらに〝地下〟があると思いました。そこまで落ちると、猛烈な焦りから「一歩、踏み出さなければ人生終わる」というえたいの知れぬ勇気が湧くんです。

宝塚を退団してからというもの、「これが駄目だったら、役者を辞めよう」と背水の陣ですべての仕事に挑みましたが、このときばかりは「これが最後の命綱」とロープにつかみかかるような、われながら信じられない馬力が出ました。どん底の地下まで落ちて、初めて見えてくるものって、あるんですね。

私の人生、5年に1度くらいのペースで、「のるかそるか」という試練が到来するのですが、ぶつかる度、何かは得たと思います。さんざん痛い思い、恥ずかしい経験もしました。もし私に、人よりいいところがあるとすれば、「格好悪さ」の経験値が豊富で、それを包み隠さず話せるところだと思います。


《以後、検事や弁護士など、格好良さと人間味を兼ね備えたキャリア女性を演じる機会が増えた。21年には、新入社員を対象に行う「理想の上司」(明治安田生命)の女性部門でトップになるなど、特に同性からの支持が高い》


それはすごくうれしいです。ただ私は、そのイメージにとどまることなく、新しい役柄にチャレンジしたい気持ちが常にあります。(聞き手 飯塚友子)

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