梅の木は成長が早い分、大木に育つことなく樹勢が止まる。楠(くすのき)は大きく育つものの歩みは遅い。それゆえ「梅の木学問」といえば、学ぶ速度は速くても大成せずに終わることを指し、その反対を「楠学問」という。
▼一人一人の歩幅が異なるように、学問が身に付く時間にも遅速がある。そんな当たり前のことに気付けなかったか。誰か気付かせてやれなかったか。「勉強がうまくいかず、事件を起こして死のうと思った」。逮捕された17歳の男子高校生は、そう供述したという。
▼大学入学共通テストの会場となった東京大学の前で、受験生ら3人が刺された。他人を敵視するほどに少年を歪(ゆが)ませた「勉強」とは、何なのだろう。被害に遭った人たちの心身の回復を願いつつ、凶刃の中に潜んだ負い目の正体をやりきれぬ思いで推し量っている。