後継者途絶えた「張子虎」の登場に沸く出雲

干支の「寅」にちなみ、島根県出雲市の郷土玩具「虎張子」を前に、にこやかに言葉を交わされる天皇、皇后両陛下と長女の敬宮愛子さま=皇居・御所(宮内庁提供)
干支の「寅」にちなみ、島根県出雲市の郷土玩具「虎張子」を前に、にこやかに言葉を交わされる天皇、皇后両陛下と長女の敬宮愛子さま=皇居・御所(宮内庁提供)

寅(とら)年を迎えた新春、島根県の出雲地方に伝わる郷土玩具「張子虎(はりこのとら)」が、新年に公開された天皇ご一家のお写真に登場し、島根の関係者から喜びの声が上がっている。すでに後継者がなくなったことで途絶えた出雲地方の家庭に広がる伝統の品が登場。「地方で守られてきた民芸品を示していただき、光栄に思う」と関係者は話している。

出雲文化伝承館館長の吉田美智子さんと高橋張子虎本舗の張子虎=島根県出雲市
出雲文化伝承館館長の吉田美智子さんと高橋張子虎本舗の張子虎=島根県出雲市

高松宮家ゆかりの品

新春に宮内庁が公開したのは、ソファに座られる天皇、皇后両陛下と長女の敬宮(としのみや)愛子さまのお写真。手前のテーブルの上には、干支(えと)の寅にちなみ、尾っぽをピンと立てた張子虎が置かれている。

宮内庁によると、この張子虎は島根県出雲地方から高松宮家に伝わってきたものだという。

所蔵の経緯や年代は不明なものの、現在は皇居東御苑内にある、代々皇室に受け継がれた美術品などを収蔵する博物館施設「三の丸尚蔵館」で所蔵されている品だ。

出雲の地域歴史博物館「出雲文化伝承館」(出雲市浜町)の館長、吉田美智子さん(66)は「写真を見た瞬間に、独特の形から出雲の張子虎だと分かりました。本当にうれしかった。古き良き民芸品・地域の物を、陛下が大切にしてくださったと分かり、光栄に思う」と話した。

出雲文化伝承館
出雲文化伝承館

後継者なく…

子供、特に男児の健やかな成長を願う縁起物の張子虎は、古くから全国各地で作られる郷土玩具で、その土地により、それぞれの特徴を持つ。

同館の学芸員、藤原雄高(ゆたか)さん(40)によると、出雲地方の張子虎は、江戸末期から活躍した松江の彫刻家、荒川亀斎(1827~1906年)が作った虎の像を原型に、明治の初めに現在の島根県出雲市今市町の職人、高橋熊市が創始した。

出雲地方の張子虎の特徴は、尾がS字のように曲がって立ち、お尻を突き出し、口を開けたひょうきんな表情だという。

和紙を張り合わせて貝殻から作られた顔料、胡粉(ごふん)で塗り固め、黄色と黒を基調とした鮮やかな色彩を施す。ひげはシュロなどの植物が使われている。牙もしっかり埋め込まれている。

出雲地方でも、武運長久や病魔退散を祈り、男児が生まれた家への端午の節句の贈答品や正月飾りとして愛好されてきた。昭和37年には年賀切手のデザインにも採用され、全国的に有名になった。

ただ、熊市の技を受け継いできた「高橋張子虎本舗」(出雲市)は、平成21年に後継者の高橋孝市さんらが亡くなったことから廃業。他の職人に技が引き継がれることなく、出雲張子の伝統は途絶えてしまった。

高橋張子虎本舗の張子虎=島根県出雲市の出雲文化伝承館
高橋張子虎本舗の張子虎=島根県出雲市の出雲文化伝承館

虎で伝える出雲の魅力

出雲市役所OGである吉田さんは、市役所勤務時代、国際関係や出雲の魅力発信などPR関係に携わってきた。高橋張子虎本舗とも関係が深かったという。

「出雲市の友好都市である海外の方が訪日されると、お土産に高橋さんの張子虎を渡していた。県外での出雲の物産展があると、高橋さんが同行してくれたこともあり、実演で出雲の魅力を虎で伝えてくれた」と振り返る。

吉田さんは、近年、出雲地方だけでなく後継難から伝統の技が途絶えていく郷土玩具・民芸品は数知れないと話した上で、こう提言する。

「出雲の張子虎は、かつては出雲の一般的な各家庭にあり、節句や新年の飾りとして使われていたもの。その伝統は途絶えてしまったが、今も残っている張子を大切にする気持ちを陛下の写真から改めて感じてもらえればそれ以上の喜びはない」(藤原由梨)

高橋張子虎本舗の張子虎などが展示される出雲文化伝承館の新春企画展「猛虎と郷土の美術」は2月27日まで。午前9時~午後5時。月曜休館。観覧料一般700円、高校生以下無料。問い合わせは出雲文化伝承館(0853・21・2460)。