『らんたん』柚木麻子著(小学館・1980円)
「女の敵は女」って言葉が嫌いだ。提唱し始めたのはきっと男だし、私の真の敵は訳知り顔でそんな戯言(ざれごと)をのたまうお前。でも、世の中にはあまりに女同士で足を引っ張り合っている作品や「結婚すると友人関係変わるよ~」なんてご助言があふれていて、ただ生きているだけでくじかれる思いがたくさんあった。だからだろう、今以上に結婚や戦争で女が引き裂かれていた時代に、鋼のようなシスターフッド(女性同士の絆)で互いを支え合い、女性教育に邁進(まいしん)する河井道と渡辺ゆりの姿があまりに眩しくて温かくてくらくらした。
後に恵泉女学園を創立する道が、教え子のゆりと歩いてきた道のりを描く壮大な大河小説には、津田梅子や新渡戸稲造、村岡花子といった近現代史やNHKの朝ドラに出てくる偉人たちがアベンジャーズがごとく大集合。個性豊かでパワフルな女たちが時に反発し合いながらも、女性の自立や権利獲得を求め、自分たちや後世のために尽力した様が生き生きと描かれている。
食べることや華やかなことが大好きな道はどんな時も明るく前向きで、それを恥と思わないと強く言い切る姿が魅力的。多くの人が手を差し伸べたのも納得だ。思わず憧れちゃうおいしそうな食事の表現は柚木麻子さんらしい。
与えるでもなく奪うでもなく、共に分かち合い光をシェアすること。「真の愛国者とは憂国者だ」という言葉。ありがとう、ごめんなさい、イエス、ノーをはっきり言う勇気を持つこと。道が大切にしてきた教えは女性という枠を超え、現代を生きる人間全てに必要とされるものだ。
時代に翻弄され、時に迷いながらつまずきながらも道たちが切り開き守り抜き、つないできた温かならんたんの灯。それは今、私の心にもともされ、決して途絶えることなどない。
仲良くなくったって、反発し合っていたってシスターだ。私はひとりじゃない。そうつぶやくと力がふつふつと湧いてくるのを感じた。
『千個の青』チョン・ソンラン著、カン・バンファ訳(早川書房・2200円)
さまざまな関係性を温かなまなざしで描き、人とともに生きることを肯定するSF作品。特に人生に諦念を抱く少女と、そんな彼女を強引に引っ張り上げる押しの強い同級生との関係性は最高のシスターフッドでぼろぼろ泣いてしまった。2人なら、きっとどこまでだって飛んでいける。
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<うがき・みさと>平成3年、兵庫県生まれ。TBSを経てフリーアナウンサーとして活動。テレビ出演のほか、各誌にコラムを連載するなど活躍の場を広げている。