佐藤二朗(52)が、最新の主演映画「さがす」に相好を崩す。「時をへてこんな刺激をもらえるんだから、年をとるのも悪くないですね」。映画、ドラマに引っ張りだこ。多忙な俳優が、この新作で、うれしい再会を果たしていた。(石井健)
「さがす」は、自主映画で注目された新進の監督、片山慎三(40)の商業映画デビュー作。
佐藤のもとに、その片山から手紙が届いた。そこには、佐藤の主演を想定して「さがす」の脚本を書いたこと、また、かつて佐藤の出演ドラマの撮影にスタッフとして参加していたことなどがしたためられていた。
「ああ! あの片山か!」。佐藤は、21歳だった片山のことを覚えていた。「当時、おもしろいやつだと思って声をかけていた」
早速、その脚本を読むと「非常におもしろかった。演じるのは精神的につらそうに思えたが、演じたい気持ちがまさった」と佐藤は振り返る。
「さがす」は、こんな話だ。父親が、ある日忽然(こつぜん)と姿を消す。中学生の一人娘が懸命に捜すが、やがて連続殺人犯と遭遇する。父親捜しと猟奇殺人を軸に、貧困や介護などの課題も盛り込んだ重層的な物語が、大阪の下町を舞台に極めて印象的な映像で描かれる。
だが、「大変でしたよ」。撮影現場を振り返り、佐藤は苦笑いする。「日本映画は、撮影時間が短すぎる」と佐藤に持論を伝えた片山は、一つの場面について5~10パターン以上をじっくりと撮り続けた。
「いろいろな可能性を探るためでしょうね。でも、実はね…」と、佐藤が告白する。ある非常に精神的につらい場面の撮影で、「この撮影だけは1回で済ませたい」という思いが頭をよぎった。「気がついたらものを投げて、何かのガラスを割っていた。修理していたら時間がかかるということで、この映画で、その場面だけが1回の撮影で終わった」
撮影期間は2カ月。日本だと予算潤沢な大作並みの時間だ。時間はコストに跳ね返る。だが、片山は固定費を抑える工夫でやりくりした。
「出会いから19年という時をへて、一緒に作品を作り、刺激をもらえた。年をとるのも悪くない」と佐藤は片山との再会を満足げに語る。
「俳優が出演を決めるっていうのは、ある種の賭けなんです」ともいう。佐藤は片山に賭けた。一方、佐藤は監督として2本の映画を撮った。出演者らは佐藤に賭けたわけだ。
「非常に幸運なことに、このところ、その賭けにずっと勝っている感じがするんです。周りの人たちに感謝しています」
◇
共演は伊東蒼(あおい)、清水尋也、森田望智(みさと)ら。21日から東京・テアトル新宿、大阪・テアトル梅田などで全国順次公開。2時間3分。小学生の鑑賞は保護者の判断が必要。