【ロンドン=板東和正】英情報局保安部(MI5)は、中国共産党の外国でのプロパガンダ工作を担う中央統一戦線工作部(統戦部)と連携して活動する女性が英議員らに対し、献金を通じて英国の政治に干渉しているとの警告を発した。警告は下院議長らに伝えられ、議員の間で共有された。BBC放送などの英メディアが13日伝えた。
BBCによると、MI5が特定の個人に関して警告を発することは異例という。警告は「MI5による長期にわたる調査」に基づいたものとしている。
BBCやガーディアン紙などによれば、女性はロンドンなどで法律事務所を運営している弁護士のクリスティン・リー氏。リー氏は英中の友好活動などにも携わり、英中関係の構築に貢献した功績をたたえた賞を2019年に当時のメイ首相から授与されたこともあるという。
リー氏は自身が運営する法律事務所を通じ、最大野党・労働党のガーディナー下院議員に14年から20年にかけて42万ポンド(約6500万円)以上を献金。ガーディナー氏は議員事務所でリー氏の息子を雇っていたが、MI5の警告を受けて息子は退職した。野党・自由民主党のデービー党首も献金対象だったという。
テレグラフ紙は「ガーディナー氏は中国の政治家や政策について好意的な発言をしてきた」と指摘した。
MI5は警告で、リー氏が統戦部と連携して秘密裏に活動していると指摘。MI5は、リー氏が英国内での親中派の勢力拡大を狙ったり、人権問題などをめぐる中国批判を封じようとしたりしているとして警戒しているとみられる。
中国の人権侵害を監視する国際議員連盟の設立を主導した保守党のダンカンスミス元党首は、リー氏は現在も英国内にいる可能性があるとして、同氏を国外退去処分にすべきだと訴えた。ガーディアン紙はリー氏が運営する法律事務所に質問状を送ったが返答がなかったという。
パテル英内相は「中国共産党のために活動する人物が英国の国会議員を標的にしたことを深く憂慮する」と語った。
英情報機関は近年、中国への警戒を強めている。対外諜報機関、英秘密情報部(MI6)のムーア長官は昨年11月の演説で、中国は英国などの世論や政治の意思決定をゆがめる目的で「大規模なスパイ活動を行っている」と強調した。