専門家の常識覆した阪神大震災 都市に潜む「盛り土リスク」

ではなぜ発生したのか。釜井氏は住宅街を歩き回り、白地図に地滑りの発生した場所を記録した。

阪神大震災で崩落した西宮市内の盛り土造成地=平成7年1月(釜井俊孝教授提供)
阪神大震災で崩落した西宮市内の盛り土造成地=平成7年1月(釜井俊孝教授提供)

西宮市相生町の阪急夙川駅近くでは昭和初期に開発された古い宅地は古くからある台地の平坦(へいたん)部に建てられていて無事だった。一方、戦後、高級住宅地としての需要に応えるため、谷の内部や低地に盛り土をして造成された宅地が集中的に被害を受けていたことがわかった。

ある家では床下を剝がすと、地面から砂が混じった水が噴き出す「噴砂」が起きており、盛り土が地下水に対して極めて弱いことを物語っていた。釜井氏は「地下水の存在が盛り土の強度に深刻な影響を与えるとわかったのが、阪神大震災だった」と振り返る。

遅れてきた公害

人の手によって積まれた盛り土が後世の住民に被害をもたらす様子を釜井氏は「遅れてきた公害」と話す。釜井氏は「盛り土崩落が日本のどの街でも、起こりうるということが阪神大震災で分かり、強い危機感を感じた」と振り返る。

国も手をこまねいているわけではない。阪神大震災や平成16年の新潟県中越地震の被害を受け、18年には宅地造成等規制法が改正され、新たに盛り土を造る際の基準が厳しくなった。

また、昨年7月に静岡県熱海市で26人が亡くなった盛り土崩落を踏まえ、政府の有識者検討会は昨年末、危険な盛り土を一律で規制する法制度の構築を提言するなど議論が進められている。

一方で、すでに造られている盛り土のリスクは残ったままだ。東京や大阪などの大都市では、人口増により都市圏が拡大するたびに盛り土が造られた経緯があり、釜井氏は「危険な盛り土は多い」と指摘する。

大阪市内を南北に延びる上町台地の周辺に多くの古い盛り土がある大阪も事情は同じだ。昨年6月には台地の一角に位置する大阪市西成区で、斜面際に建つ民家2棟が造成されていたのり面ごと倒壊した。

盛り土のリスクに対処する上で鍵となるのは住民の自己防衛意識だ。地下水位の状態はボーリング調査以外でも、自治体に問い合わせれば確認できるケースもある。釜井氏は「行政側がリスクを可視化し、住民が適切に自己防衛できる仕組みの構築が必要だ」と強調した。(花輪理徳)

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