密着警視庁

(2)生存者や爆発物捜す「力」 人犬一体の警備犬

犯人制圧訓練では、犯人役の腕にかみつき指示が出るまで離さなかった=昨年11月25日、東京都内の警備犬訓練所(松崎翼撮影)
犯人制圧訓練では、犯人役の腕にかみつき指示が出るまで離さなかった=昨年11月25日、東京都内の警備犬訓練所(松崎翼撮影)

東京・多摩地区にある警視庁の警備犬訓練所。無機質な外観で、表札や看板も一切ない。テロ対策で場所は公にされていない。その「秘密の訓練所」に、記者が足を踏み入れた。

敷地に入って早々、たくましい警備犬約30頭が犬舎で待ち構えていた。隣接した運動場に乗用車やはしご、つり橋など、任務を想定した設備があり、所属する警察官約20人と1日平均3~4時間、訓練するという。

警備犬の重要な任務の一つである爆発物の捜索訓練。数ミリグラムの爆発物のにおいを付けた小さな布を使用する。警備犬は数種類の爆発物のにおいを記憶しており、人間の5千~1億倍もの嗅覚で捜す。記者も布を嗅いでみたが、全くにおわない。それをトランク内に隠した。

「捜せ!」。ハンドラー(担当者)の掛け声で、ジャーマンシェパードのエデン号(6歳)は車に鼻先を近づけてクンクン。ボンネットから嗅ぎ、トランク前でにおいを感知した合図の伏せの姿勢を取った。

ほかにも、銃を撃つ犯人役に飛び掛かり、防具を付けた腕にかみつく制圧訓練などが行われた。実際の任務で音などに動じないため、訓練でも全力でかませるといい、中には何針も縫うけがを負ったハンドラーもいる。指導官の山川良博さん(69)は「互いに真剣勝負です」と力を込める。

生存者の捜索

災害現場を模した雑木林で、あっという間に記者を見つけたノーベル号=昨年11月25日、東京都内の警備犬訓練所(松崎翼撮影)
災害現場を模した雑木林で、あっという間に記者を見つけたノーベル号=昨年11月25日、東京都内の警備犬訓練所(松崎翼撮影)

記者も生存者役で災害時の救助訓練に参加した。訓練場の雑木林は、被災地を模してがれきや倒木のほか、掘った穴が約10カ所ある。記者は入場口から離れた井戸のような穴に隠れ、穴を板で塞ぎ息を潜めた。

警備犬は、倒壊家屋や土砂に埋もれた生存者の皮膚の浮遊臭などを捉えて捜索するという。事前に対象者のにおいを記憶することなく、姿の見えない被災者を捜すよう訓練されている。

開始から30秒ほどで、ラブラドルレトリバーのノーベル号(3歳)の走る足音が近づいてきた。頭上を走り去ったと思いきや方向転換し、周辺を往復。板の上で立ち止まり「見つけたよ!」と言うようにほえた。

駆け付けたハンドラーは「よーし!」と言いながら、ノーベル号をなで、褒美のボールを渡した。ノーベル号は尻尾を振り、ご満悦の様子。「犬は褒めてもらえて、好きな褒美をもらえるから、訓練を頑張っているんです」と山川さん。

次に、声や指の動きで犬に指示を出す服従訓練にも挑戦した。だが、うまく息が合わなかった。以前、ラブラドルレトリバーを飼っていた経験からできると思ったが、日頃から訓練をともにする大切さを感じた。

信頼関係育み

訓練所に配属されて1年目の高橋琴音巡査長(25)は、相棒のジャーマンシェパードに「3カ月でやっと担当者と理解してもらえた」と苦労を振り返る。人犬一体となることが必要とされる業務。着任後2週間は同じ部屋で寝起きし、休日も餌をあげたり、遊び相手になってあげたり、時間をかけて信頼関係を育んだ。

最前線に送り込まれる警備犬は、命を落とす危険とも隣り合わせだ。だからこそ、相棒に愛情を惜しまず注ぐ。「いつ起こるかわからない災害現場などで一緒に活躍したい」。高橋巡査長はそう願っている。(王美慧)

取材メモ 取材では、警備犬がまるで人間の言葉がわかるように、ハンドラーの指示に忠実に動き、任務の内容を瞬時に理解していたのには舌を巻いた。

警備犬は任務ごとに担当が分かれているのではなく、1頭がすべてに対応できるよう訓練されている。「実はその任務の切り替えで重要な役割を果たすのが首輪」(職員)という。

首輪の種類で自ら任務を区別し、爆発物の捜索はチェーン、災害救助では鈴付きの首輪、これを革の首輪に付け替えたとたん、犬は呼吸が激しくなり、犯人制圧モードに切り替わる。

警備犬の「強さ」の一端を垣間見ることができ、日々、真摯(しんし)に警備犬と向き合い、ともに訓練に励むハンドラーたちの熱意も感じた。

警備犬 警視庁で任務に当たる犬は大きく分けて2種類。事件現場で遺留物のにおいから犯人を追跡する鑑識課の警察犬と、警備2課の警備犬だ。警備犬に期待されるのは、各国の要人に危害を加えようとするテロリストの制圧や爆発物の探知など「未然防止」。ジャーマンシェパードとラブラドルレトリバーが活躍し、すべて庁内で飼育する直轄犬で、深夜の出動にもすぐ対応できる。