ビブリオエッセー

真っ白な夜の底から 「雪国」川端康成

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった」で始まるあまりに有名なこの小説を、恥ずかしながら初めて読みました。一気に読める長さなのですが、なぜか今まで開いてみることはありませんでした。年末から雪のニュースが続く日々に、ふと誘われるように書店で購入したのです。

親の財産で暮らす妻子持ちの東京の男、島村が雪国の温泉町で、駒子という若い芸者と恋愛のような危うくも微妙な関係を結ぶ物語。そこへ駒子が習う三味線と踊の師匠の息子、行男とその恋人らしき葉子がからんできます。いつの世も男女の関係は哀しいものですね。

この小説のもう一つの読みどころは雪国の風物の描写にあります。舞台は越後湯沢温泉。

「一面の雪の凍りつく音が地の底深く鳴っているような、厳しい夜景であった。月はなかった」「星の群が目へ近づいて来るにつれて、空はいよいよ遠く夜の色を深めた」。繊細な描写が登場人物の心模様のように感じました。

話の要は駒子という娘を描くことにあるようです。彼女は世話になった師匠の息子が重病になったので治療費を稼ぐため芸者になったようです。そして一途に島村という男を求め、虚しい恋をしてしまうのです。その哀しさが雪国という土地と重なり、美しく映りました。

読み終えて、今は帰ることのないふるさとの雪を思い出しました。降り出すと二階の屋根に届くまで積もる豪雪地帯です。あたり一面まさしく銀世界でしたが、その情景も今は遠く、悲喜こもごもの記憶とともにあります。

大雪とコロナ禍の年明けでした。でも厳しい冬の後は必ず春がくる。そう信じています。

大阪府河内長野市 中畔美代子(78)

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