野球がぜんぶ教えてくれた 田尾安志

相手の長所を認めて助言する

2001年11月、W杯に出場した巨人の阿部=台北
2001年11月、W杯に出場した巨人の阿部=台北

今季のプロ野球は中日、ソフトバンク、日本ハムの3球団が新監督の下で戦う。他の球団もコーチを入れ替え、新たな陣容でシーズンの戦いに挑む。選手の才能を生かすも殺すも、指導者の能力次第。名選手を育てる優秀なコーチがもっと現れてほしい。

コーチは選手指導の際に忘れてはならないことがある。どんな選手も何か光るものを持っていると見いだされてプロ野球界に入ってきている。まず最初にどこか一つでも良いところを見つけて言葉ではっきりと伝えて認めること。そうすることで、選手は「この人はちゃんと見てくれている」と心を許すようになり、助言にも耳を傾けてくれる。

投球や打撃の動作をチェックし、基本から外れている箇所を指摘するだけなら誰でもできる。駄目出しを繰り返すだけでは選手との信頼関係は築けない。選手が受け身にならずに練習に取り組むためには、コーチが気持ちを乗せてあげることだ。選手が10人いれば10人それぞれに良さを見つけて認めなければ、有能な指導者とはいえない。

僕も選手への声の掛け方には細かく注意を払ってきた。2001年秋のIBAFワールドカップ(W杯)で日本代表の打撃コーチを務めたときのこと。当時代表メンバーだった巨人の阿部慎之助捕手(現1軍作戦兼ディフェンスチーフコーチ)はプロ1年目のシーズンを終えたばかりで、成績は打率2割2分5厘、13本塁打。そこで阿部に「13本も本塁打を打ててよかったと思っているのか、2割2分しか打てずにガッカリしたと思っているのか」と尋ねた。

答えは返ってこなかったが、まだ打撃フォームが発展途上だった彼に、打つ際の右腕の使い方について助言を送った。「君の本当の力を出すために、プロ野球界の先輩として一つだけ変えてほしい箇所がある。右肘に少し余裕を持たせる。一度試してみないか」。こんなふうに言葉を掛けた。

阿部は半信半疑ながら、僕の助言を取り入れて打ってみたところ、強烈な当たりを連発。周りの選手が目を見張っていた。その後、2年目に打率2割9分8厘、18本塁打と飛躍したのは、僕にとってもうれしいことだった。無理に褒めそやす必要はないが、ときには相手の自尊心をくすぐるような言葉が有効な「スパイス」になる。(野球評論家)