朝晴れエッセー

冷蔵庫の中・1月12日

私が子供の頃、冷蔵庫にはいつもいっぱいの食品が入っていた。

ドアを開けてすぐ目に入るのは父の好きな瓶ビールが2、3本。私が毎朝取りに行く牛乳箱のヨーグルトが2瓶。たまご屋のおばさんが裸電球にかざして中身を確認したたまごが数個。

魚屋のおじいさんが「とれとれの手々かむイワシや! いらんかーい!」と名調子で売っていた魚。夕刻、自転車でパァ~プゥ~と気の抜けたラッパを吹いてやってくるおじちゃんの豆腐。ウインナーソーセージにチーズ、季節の野菜や果物が冷蔵庫にあってそれが普通だと思っていた。

ところが、高校3年になってすぐ、父は突然帰らぬ人となった。専業主婦だった母と妹、幼い弟2人。冷蔵庫の中はみるみるうちに少なくなっていった。

私は冷蔵庫を見て事の重大さを知ることになる。高校を辞めて働くことも考えたが、あと1年に迫った卒業を望む周囲の声に諭された。

母は知り合いの紹介で飲食店へ働きに出たが、まだ7歳の上の弟は寂しさから、泣きながら叔父さんに「お母さんが家におれへん…」と電話を掛けていたと聞かされた。

母はその後も、子供をみながらいくつも職を変わり、そして冷蔵庫の中を徐々に増やしていった。

夜の更けようとする頃、私は仕事から帰宅する。手洗い、うがいを済ませ冷蔵庫を開ける。いっぱいの食品が今日もそこにあった。

肝月隆(64) 大阪市住之江区