脱炭素最前線

三菱重工、30年の実績持つCO2分離・回収プラント コスト削減で首位維持へ

三菱重工業グループが設備を納入した世界最大規模のCO2分離・回収プラント=米テキサス州(三菱重工エンジニアリング提供)
三菱重工業グループが設備を納入した世界最大規模のCO2分離・回収プラント=米テキサス州(三菱重工エンジニアリング提供)

石油産業によって発展を遂げた米テキサス州ヒューストン。その中心部から南西60キロほどのところにある石炭火力発電所で今、脱炭素時代の象徴ともいえる設備が稼働している。石炭を燃やした排ガスから年間約160万トンもの二酸化炭素(CO2)を分離・回収できる大規模プラントだ。回収したCO2はパイプラインで約130キロ離れた油田に注入されている。

CO2分離・回収プラントは、CO2を回収し、地下に閉じ込めたり再利用したりする「CCUS」と呼ばれる技術の中核だ。開発・建設したのは三菱重工業グループ。同社は燃焼排ガスからのCO2回収量で70%以上のシェアを誇り、世界トップメーカーとして君臨する。

昨年開かれた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)では、石炭火力が最大の争点となった。最終的に合意したのは、排出削減対策が講じられていない石炭火力の段階的削減。CCUSは排出削減対策に含まれるとされ、同社の技術への関心が高まっている。同社成長推進室エナジートランジションCCUSビジネスタスクフォースリーダーの洲崎誠氏は「CO2の貯留先がある欧米から引き合いが多く、東南アジアからも増えている」と明かす。

三菱重工は平成2年に関西電力とともにCO2分離・回収プラントの技術開発に着手し、30年以上の実績を持つ。排ガスからのCO2分離・回収技術には、固体吸着材を活用する「固体吸着法」やCO2の分離機能を持つ膜を使った「膜分離法」もあるが、三菱重工はCO2を吸着する独自の溶剤を用いる「化学吸収法」を採用している。

プラントは3つの塔で構成。最初の塔で常温に冷却した火力発電の排ガスを次の塔に送り、化学反応によってCO2を溶剤に吸着。最後の塔で蒸気によって温めCO2を分離し、99.9%の高純度のCO2として回収する仕組みだ。排ガスに含まれるCO2の90%以上を回収できるという。三菱重工はこの20年間で世界13カ所に商用プラントを納入した実績を持つ。

現在、CO2分離・回収プラントは化学吸収法が主流で、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルや米フルア、ノルウェーのエイカー、日鉄エンジニアリング、東芝などが手掛けている。脱炭素時代を迎え、競争の激化も予想されるが、洲崎氏は「発電効率を下げずにCO2を吸収する方法や吸収液の劣化の少なさが当社の強みだ」と自信を示す。

問題は建設コストだ。例えば年間100万トンのCO2を回収する設備の場合、建設費は数百億円規模に達する。今後も他社をリードするにはコストの引き下げが必要とみている。

建設コストが高いのは、設置場所に応じて設計していることが大きい。このため、三菱重工では設計の最適化を図り、プラントの標準化を進めていく。これにより、建設コストを「3割は削減できる」(洲崎氏)とみている。すでにボイラー、ごみ焼却施設など向けの小型プラントについては標準プラントを開発しており、令和4年度までにラインアップを拡充し、CO2回収能力が日量200トン未満の5機種を投入する。

一方、回収したCO2の利用や貯留にも進出し、事業をCCUS全体に広げていく方針だ。CO2を原料に化学品を製造する米国のスタートアップに昨年出資したほか、CO2運搬船の開発にも乗り出している。

日本IBMと提携し、回収したCO2の取引市場の整備にも着手した。CO2を売買できるシステムを開発し、CO2の流通市場を整備することでCO2を再利用する企業を増やすことが狙いだ。こうした取り組みで、12年にCCUS事業全体で売上高1500億円以上に伸ばす方針だ。

発電所などを手掛けるエナジー事業は、三菱重工の稼ぎ頭だ。だが、脱炭素の潮流は、石炭火力の新規受注や保守サービスの減少という形で同社にも影響を与えようとしている。事業をCCUS全体に広げることは、今後も成長を続けるために欠かせない戦略となる。(黄金崎元)=随時掲載