くじら日記

大水槽、半年間の停止後に再開

海洋水族館マリナリュウム大水槽に戻ったイルカと、飼育員=和歌山県太地町立くじらの博物館
海洋水族館マリナリュウム大水槽に戻ったイルカと、飼育員=和歌山県太地町立くじらの博物館

1971(昭和46)年の開館から50年が経(た)った海洋水族館マリナリュウム。濾過(ろか)器や熱交換器が設置されており、自然の入り江を主だった飼育施設とするくじらの博物館の中で、唯一、水質や水温を管理できる半屋外型陸上施設です。大水槽では、低水温を苦手とするマダライルカやシワハイルカ、直射日光を嫌うアルビノのバンドウイルカを飼育展示しています。

この水槽が、約半年間、運転停止という事態に陥りました。

2021(令和3)年6月1日の夕刻、大水槽を循環する水流の異変に気付きました。調べてみると、施設一部から、水が湧き出ていたのです。そこにあるのは主要な排水管で、破損による漏水が考えられました。しかし、管は地中に埋まっており、被害把握は不可能。バルブもなく、漏れる水を食い止める術もなし。放っておくと水槽の水位は下がる一方です。躊躇(ちゅうちょ)する間もなく、イルカは引っ越しを余儀なくされました。

飼育員は慌ててウエットスーツに着替えました。水槽に入り、イルカを1頭ずつ捕まえ、専用の担架に収容し、クレーンやトラックによって別の飼育水槽へ運搬する作業を繰り返しました。9頭の避難を終えたのは22時頃。夜が更ける中、空っぽになった水槽を啞然(あぜん)として眺める飼育員たちでした。

翌日から、マリナリュウムは閉鎖。それからというもの、落胆して館入り口で引き返すお客さまや、問い合わせが絶えませんでした。避難させたイルカも、いつまでも他所で飼育できるわけではありません。大水槽の配管改修工事は緊急に解決しなければならない問題でした。

しかし、修理は難航。マリナリュウムはその後再開したものの、一度工事を終えた大水槽は再び水漏れし、7月9日からまた展示を中止しました。破損した管が地中に埋まっていることにくわえ、腐食もひどく、復旧は見込めませんでした。新たに管を通すにも、築50年となる建物への工事には慎重さが必要です。専門業者と解決方法を模索する間にも、熱でコンクリート壁が膨張して亀裂が入ったり、アクリル窓のコーキングが浮いて隙間ができたりするなど、新たな難事にも見舞われました。

七転八倒の末、水槽に水を張れたのは12月6日のことでした。気がかりだった亀裂や隙間からの水漏れはありません。人心地(ひとごごち)ついて水槽を眺めていると、背中越しに、「わぁ、すごい」と、お客さまのつぶやかれた声が聞こえ、これで日常に戻れると感慨に浸りました。そして大水槽にイルカを戻して12月11日から展示が再開できました。

慌ただしかった半年が噓のように、イルカたちは落ち着き払っています。水槽があり、水が張られ、そこに生き物が暮らし、それをお客さまが見に来る。そんな水族館のあるべき姿が、今年も1年続きますように。(和歌山・太地町立くじらの博物館副館長 稲森大樹)