「尹伊桑(ユン・イサン)」(1917~95年)の名を、現代の日本人は知っているだろうか。朝鮮出身の世界的な作曲家。その評価は、アジアよりも、むしろヨーロッパで高い。
パリ国立高等音楽院に留学、独国立ベルリン芸術大学の教授を東洋人として初めて務めた。1972年のミュンヘン五輪のために、祝典オペラ『沈清(シムチョン)』を書き、95年5月には、ドイツ放送局が選ぶ「世界最高の作曲家5人」に選出された。同年11月、尹が78歳で亡くなったときには、あのベルリンフィルが直ちに追悼演奏会を開いている。
日本には何度も訪れ、知己が多かった。92年、尹の生誕75年を祝う記念フェスティバルが開かれた際の発起人の顔ぶれがすごい。作曲家の團伊玖磨(だん・いくま)▽黛敏郎(まゆずみ・としろう)▽武満徹(たけみつ・とおる)▽指揮者の岩城宏之(いわき・ひろゆき)▽評論家の吉田秀和…日本の音楽界を代表するそうそうたるメンバーだ。