密着警視庁

(1)痴漢、盗撮、暴漢も 目が泳ぐ「不審者」捜せ 鉄道警察隊

職務質問をする鉄道警察隊員。男は警棒などを持っていた=令和3年12月、JR上野駅(吉沢智美撮影)
職務質問をする鉄道警察隊員。男は警棒などを持っていた=令和3年12月、JR上野駅(吉沢智美撮影)

新型コロナウイルスの感染者数が減少し、通勤ラッシュが戻りつつあった昨年12月初旬の午前9時ごろ。JR埼京線赤羽駅(東京都北区)のホームに降り立って利用客に目をこらした2人は、1分もしないうちに怪しい男を見つけ出した。2人は警視庁鉄道警察隊上野分駐所の私服隊員。一般の乗客に紛れながら、スリや痴漢の摘発を行う。埼京線は、特に痴漢被害が多い。

痴漢はエスカレート

痴漢の特徴は、目当ての女性を探すために目線が動きやすく下半身に集中したり、不自然に電車を乗り過ごしたりする。先ほど目星をつけた男は電車に乗り込んでしまった。しかし、痴漢は一定の駅区間を往復して犯行を繰り返すことが多く、隊員は男が赤羽駅に戻ってくるのを待った。

やはり男は戻ってきた。再び新宿方面の電車に乗ったのを確認し、記者も隊員とともに乗り込んだ。

都内の電車で埼京線の1号車は混雑が激しく、痴漢被害も多い。インターネット上で仲間を募って集団で犯行に及んだ事件もある。

橋本一城中隊長は「痴漢はエスカレートする。騒がないと今度はその人を狙って痴漢を繰り返す」とし、痴漢にあったら抵抗の意思を示すことが重要と説く。

警視庁の防犯アプリ「デジポリス」には《痴漢です 助けてください》と画面に表示される機能があり、声を上げられなくても、周囲に助けを求めることができる。橋本中隊長は「助けを求められたら周囲の人が立ち上がることが大事だ。『どうしました』と声掛けしてほしい」と訴える。

「列車警乗」で抑止効果

この日、埼京線で男の犯行は確認できなかった。しかし、同日の昼には上野駅で「痴漢をされた」という被害者の訴えで事情を聴こうとした男が、線路内に逃走する事案が発生。非常停止ボタンが押され、男を捕まえようと警察官のほかに一般人まで線路内に入ってしまい、一歩間違えれば大惨事になるところだった。

15分ほど逃げ続けた男は、電車内で隣の座席に座っていた女性の腹部を触ったとして都迷惑防止条例違反の疑いで現行犯逮捕され、容疑を認めた。

鉄警隊では犯罪抑止のために制服姿でも電車内や駅のホームなどを見回る。制服警察官が列車に乗りこむ「列車警乗」と呼ばれるパトロール活動では、「不審者捜索はもちろん『お巡りさんが来ている』と意識させることが大事だ」(隊員)という。乗客が周囲を見回すなど警戒心を見せることで、犯人が犯行を断念することもある。

地道な取り組み

午後4時過ぎ、上野駅の中央連絡通路で、隊員が1人の男に職務質問した。

男の目線が動いていた。腰から警棒の柄が見えたため荷物を確認したところ、警棒のほかに折りたたみナイフ、護身道具として使えるタクティカルペン、メリケンサックが出てきた。

「刑事ドラマにあこがれた」。男はそう話した。

橋本中隊長は「後ろめたいことがある人間には緊張感がある。キョロキョロしている人でも、道に迷っている場合と、後ろめたいことがある場合とでは、目つきが違う」と説明する。

男について警視庁は銃刀法違反容疑で捜査中で、任意提出した警棒などは捜査終了後に処分される予定。だが、もし男が折りたたみナイフなどを他人に向けていたら、ただのけがでは済まなかったはずだ。昨年は駅や電車内での刺傷事件なども頻発し、利用客の不安も高まっている。

「地道にいつも通りにやっていくことが大事」と橋本中隊長は言う。最大限の警戒で、最小限の犯罪に留めることが、悲惨な被害を防ぐことにつながる。鉄警隊の地道な取り組みによって都民の安全が守られていると、改めて感じた。

(吉沢智美)

首都の治安維持を担う警視庁。約4万6千人もの職員を抱える日本最大の警察組織で、職務は犯罪捜査から交通取り締まり、要人警護といった多岐にわたる。その「職」の一端を担当記者が体験・密着した。

記者メモ 警視庁を担当するようになって1年半以上が経過した。駅や電車内での事件や事故は毎日のようにあるが、鉄道警察隊の名前を聞くことはほとんどない。鉄警隊が犯人を逮捕しても、事件の処理などは管轄署が行うため、事件が広報される際に名前が出ることがないのだ。しかし、東京の屋台骨を守っていることに違いはない。

逮捕だけでなく、事件を未然に防ぐことも鉄警隊の重要な仕事の1つ。数多くの人の中から不審者を見分けるポイントとしてよく上がったのは〝目線・目つき〟だ。まさに「目は口ほどに物を言う」である。

鉄道警察隊 旧国鉄の民営化に伴い廃止となった鉄道公安職員の業務が各都道府県警に引き継がれ、昭和62年に発足した。警視庁では東京・新宿・上野・立川の計4つの分駐所が都内の鉄道を管轄。通勤通学時間帯には痴漢や盗撮、深夜時間帯には酔客を狙った過酔者(かすいしゃ)盗など、電車内や駅構内で発生するさまざまな犯罪のすべてに対応する。