ビブリオエッセー

絶品グルメに昼飲みの誘惑 「ランチ酒」原田ひ香(祥伝社文庫)

書名の通り、ランチを食べながらお酒を飲むアラサー女性の小説です。主人公は犬森祥子。夕食ではなく真昼の酒ですが理由があります。

祥子の仕事は「見守り屋」という聞いたことのないもので、営業時間は午後11時から翌日の午前5時まで。「中野お助け本舗」から派遣され、客の依頼で寝ずの番をする仕事なのです。昼夜逆転だからランチ酒はいわば夜勤明けの「晩酌」。奇抜な設定です。

祥子が食べて飲む16の短編から成り、さまざまな派遣先が舞台です。預かるのはキャバクラに勤めるシングルマザーの幼い娘だったり、株式トレーダーの女性が飼う認知症の老犬だったり、どれも訳アリ。「ただ見守るだけ」でそれぞれのドラマが見えてきます。そんな一夜を思い出しながらのランチ酒なのです。

実は祥子もバツイチで婚家に一人娘を残していて、そのストレスもあり、泥酔して「家に帰ったら、すぐに寝たい」と考えています。やりきれない思いを紛らわすお酒でした。

さて、話の中に出てくるお店(店名は書かれていませんが)は実在するものばかりらしく、中目黒や丸の内、秋葉原に新宿から阿倍野まで地域も幅広く、メニューも肉丼や牛タン、サイコロステーキにうな重、それに合うお酒の数々…と絶品グルメのガイドになりそうです。

祥子がひとりでお店を物色する様子から人気ドラマ(漫画)の『孤独のグルメ』を思いつきますが、井之頭五郎は飲めない男でした。

お酒好きには「食事(つまみ)を食べながら飲む」のは邪道だと嫌う人もいますが私はこの小説の表現を使えば「おかず、ごはん、お酒の三位一体」に幸せを感じる正統派?です。コロナが収束したら、おいしいランチのお店をぶらっとのぞいてみたい。お酒は抜きで。

大阪府茨木市 吉本真人(68)

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