米、露の「速攻」警戒 戦略対話で溝埋まらず

ロシアのプーチン大統領(タス=共同)
ロシアのプーチン大統領(タス=共同)

10日に行われた米国とロシアの「戦略的安定対話」で、ロシアが強く要求する北大西洋条約機構(NATO)の「東方不拡大」をめぐる溝は埋まらなかった。ロシアはウクライナ国境付近での部隊増強を続けると明言し、協議打ち切りの可能性も示唆した。バイデン米政権は、強硬策で「速攻」を仕掛けるプーチン露政権の交渉ペースに巻き込まれないよう警戒を強めている。

「ウクライナ抜きで同国の安全保障を決定することはなく、欧州抜きで欧州のことを決めることはない」

ロシア軍の威嚇行動で緊迫するウクライナ問題について、シャーマン米国務副長官は10日の電話記者会見でこう原則的な立場を強調した。同様の言い回しはこのところ、ブリンケン国務長官ら米政権高官によって多用されている。同盟・パートナー諸国の意向を無視してロシアと合意を結ぶことはないとの意味合いだ。

プーチン露政権は昨年末、NATO東方不拡大などを盛り込んだ条約案を公表して「先制パンチ」を浴びせ、バイデン政権に協議の早期妥結を迫っている。これに対してバイデン政権は、ウクライナやNATO諸国と慎重に足並みをそろえたい考えだ。

ホワイトハウスによると、ウクライナ情勢の緊張が高まった昨年11月以降、バイデン大統領やブリンケン氏、オースティン国防長官、サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)らが、ウクライナと20回の電話・対面会談を実施。NATO非加盟国を含む欧州諸国などとは50回以上のやりとりを重ねた。

バイデン政権は、トランプ前政権下で関係が悪化した欧州との「同盟修復」を掲げており、精力的な連携努力はそれに沿うものだ。

ただ、欧州諸国にはロシア産天然ガスへの依存度や、ロシアからの脅威の切迫度などに応じて温度差がある。各国との調整に気を配ることは、バイデン政権の手足を縛ることにもつながりかねない。

バイデン政権は今回の協議で、米露がミサイル配備を制限することなどを話し合うことを提案。シャーマン氏は「こうした複雑な問題を話し合うには数週間が必要だ」と交渉ペースを落とすことを狙うが、主導権を握れるかは見通せない。

ロシアが米国やNATOに対する圧力を弱める気配はない。

ウクライナ国境の部隊展開について、リャプコフ露外務次官は10日の記者会見で「NATOによる対露圧力に対応した訓練」だと主張し、部隊撤収を求める米国の要求を一蹴した。リャプコフ氏はまた、米国やNATOの出方次第では協議が1回だけで終了する可能性もあると強気を崩さなかった。

こうした姿勢の背景には、中国抑止に追われるバイデン政権に欧州との「二正面作戦」に臨む余力はないとのロシアの見立てがある。12日にはロシアとNATOの協議が行われるが、ロシアは米国さえ譲歩させられればNATOは米国の意向に従うともみている。

リャプコフ氏は親露派武装勢力が実効支配するウクライナ東部の情勢について、「ウクライナ(政府側)が挑発を行えば、衝突は避けられない」と述べた。ロシアはNATOによるウクライナ軍事支援を「脅威だ」と主張しており、親露派地域の住民に露国籍付与も進めている。

ロシアは「自国民保護」や「自衛権の発動」を名目にウクライナに侵攻するのではないか-。プーチン政権は米国やNATOにこうした懸念を抱かせて交渉を有利に進め、ウクライナとNATOの間にくさびを打ち込みたい考えだ。(ワシントン 大内清、モスクワ 小野田雄一)