ガンダムとともに

①オリジンは「小さき者たちの物語」 漫画作者・安彦良和さんの原点

安彦良和さんが描いた「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」の主人公、アムロ(右下)と敵役のシャア(左上)©創通・サンライズ
安彦良和さんが描いた「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」の主人公、アムロ(右下)と敵役のシャア(左上)©創通・サンライズ

ロボットアニメの金字塔「機動戦士ガンダム」の作画監督などを務めた後で漫画家に転身し、同作をベースにした漫画を執筆した安彦良和さん(74)が、連載開始から約20年を迎えたのを機に取材に応じ、約40年前のアニメ開始時から中心スタッフとして関わってきたガンダムへの思いを語った。幅広い世代を熱中させてきた自身の漫画について安彦さんは、一人一人のキャラクターの悩みや葛藤をすくい取る「小さき者たちの物語」であると表現した。

昭和54年放送の「機動戦士ガンダム」は、人類が宇宙に進出した近未来を舞台に、地球連邦軍と宇宙植民地の戦争と壮大な人間ドラマを描いた物語だ。ただし、このアニメ版は諸般の事情により「かなり無理をした」編集になっていたという。

「アニメや映画にはフォーマットがある。やむを得ず切り捨てる部分はどうしても発生するが、もったいないシーンも多かった」。安彦さんは平成13年、漫画誌「ガンダムエース」(KADOKAWA)で「機動戦士ガンダム THE ORIGIN(ジ オリジン)」(矢立=やたて=肇・富野由悠季=よしゆき=原案)の連載を開始。アニメ版を踏襲したうえで、独自の解釈で物語をスムーズに補完した。

「連載では『好きなように描いてくれ』と。じゃあ、あれも復活、これも復活…となりました」

物語には、最重要キャラクターの一人でファン人気も高い敵役シャアと、その妹セイラの前日譚も織り込んだ。反響は大きく、単行本(全24巻)は累計1000万部を超える大ヒットを記録。23年に完結した。

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ガンダムの人気は今も衰えていない。今年の初夏にはアニメ映画「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」が公開予定だ。安彦さんが監督を務める。

「THE ORIGIN」についても20年の節目を迎え、22日に原画展が埼玉県所沢市のEJアニメミュージアムで開幕する。物語の始まりの地「サイド7」からの旅立ちから最終決戦に至るまでの直筆イラスト500点以上を展示。主人公アムロやシャアの絵はもちろん、作品を彩ったモビルスーツ(ロボット)や、読者の心に刻まれた名脇役らの絵も公開される。

「この(原画展の)話、最初はお断りしたんです」

昨年12月、所沢市内の自宅で取材した際、安彦さんはこう明かした。漫画連載終了から10年あまり。「完結した話だし、今やって喜ぶ人はいるのか」と考えたからという。

「でも、実はまだ動きがある(売れている)と聞いて、まだ終わっていないんだ、と…。そういうことならいいかな、という気になりました。自分で言うのも何だけど、結構よく描けているし、いい話だと思いますからね」

「小さき者たちの物語」。自身はガンダムという作品の魅力をこう端的に表現する。アムロをはじめとした登場人物の多くは、自分の意志と関係なく戦争に巻き込まれる。戦艦には戦災孤児も乗り込み、敵兵士や難民をメインに扱った話もある。

「この視点は従来のアニメやSFではあまりなかった。敵味方にはっきり分かれ、ヒーローもいて…という話は理解しやすいし、受けもいい。でも、ガンダムはそうではない。社会的地位や能力は違えど、一人一人のキャラクターがもがき、あがきながら漂っていく。『オリジン』では、もう満足です、というくらいに描かせてもらいました」

「出自の変わった漫画家」。安彦さんは自身をこう評する。山奥で過ごした幼少期、大学時代の学生運動、ガンダムとの出会い、漫画家への転身…。その功績を、挫折と挑戦を繰り返してきた人生とともに振り返る。

やすひこ・よしかず 昭和22年、北海道遠軽町出身。弘前大除籍。上京後、アニメーターとしてアニメ「宇宙戦艦ヤマト」などに携わり、54年の「機動戦士ガンダム」ではキャラクターデザインや作画監督を手掛けた。その後は漫画家に転身し、「虹色のトロツキー」「王道の狗(いぬ)」「天の血脈」など日本史をテーマにした作品を発表。平成13~23年、漫画「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」を連載し、後のアニメ版でも総監督に就任。今年初夏公開予定のアニメ映画「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」でも監督を務める。

ガンダムとともに② 「挫折」経験、アニメの世界へ