多面鏡

止まらぬ無差別殺傷 「無敵の人」を生んだのは誰か 東京社会部長・酒井孝太郎

新年早々から気が引けるのだが、重たい事件を俎上(そじょう)に載せておきたい。

昨年の10月31日は衆院選の投開票日であり、ハロウィーン当日ということもあって、東京の夜は平素とは違う高揚感に包まれていた。そこに飛び込んできたのが京王線特急電車内での惨劇だった。

服部恭太容疑者(25)=殺人未遂容疑などで逮捕=は面識のない男性の胸をサバイバルナイフで刺した後、オイル約3リットルをまき、ライターを投げ込んで火をつけた。男性は一時意識不明となったほか、乗客16人も煙を吸うなどしてけがを負った。炎が立ち上り爆発音が鳴る中、パニック状態となった乗客が逃げまどい、ようやく停車した車両の窓から次々と押し出される衝撃的な映像が、脳裏に焼き付いて離れない。

事件では防犯カメラの有無や緊急時のドア開閉の是非など、都会の死角をめぐる諸課題が指摘された。それと同時に気になったのは、やはり犯行動機だ。「友人や仕事関係がうまくいかず、人を殺して死刑になりたかった」「東京なら人をたくさん殺せると思った」「誰も死なず、非常に残念な気持ちで落ち込んでいる」。身勝手な供述からは人間の血の温かみを全く感じない。

服部容疑者は福岡市の団地で、母と妹と暮らしていた。地元の中学では陸上部に所属し、高校では空手部で活動。卒業後は市中心部のインターネットカフェなどで働いたが、盗撮事件を起こし、摘発される。前後するように長年交際していた女性と別れた。その後は介護ヘルパーや営業など仕事を転々。昨年6月、コールセンターで顧客からクレームを受け会社側から配置転換を打診されると、自ら退社を申し出たという。

地元を離れ、消費者金融で借金を重ねながら神戸や名古屋で過ごし、9月末に東京へやってきた。約1カ月間、八王子のビジネスホテルで寝泊まりし、チェックアウトの期限が迫って犯行に及んだ。