古典個展

大阪大名誉教授 加地伸行 虎よりも怖いもの

ハンガリーの動物園で生まれたトラの赤ちゃん(AP=共同)
ハンガリーの動物園で生まれたトラの赤ちゃん(AP=共同)

謹賀新年。

今年は干支(かんし)で言えば、寅(いん)すなわち虎年(とらどし)である。とあれば、虎について述べよう。タイガースファンの老生としては嬉(うれ)しい。

さて虎、これは手強(てごわ)い。老生は鼠(ねずみ)年生まれなので、震えながらの話になるが。

この虎、中国では恐れられてきた。ライオンはアフリカやインドにおいて王者であるが、東北アジア(日本、中国、朝鮮半島など)にはいなかった。だから、虎は東北アジアの動物界では王者であり畏(おそ)れられていた。

ということで、東北アジアでは虎自体について、一種の神秘性を感じていた。すなわち人間はもちろん諸動物の力量を超えたなにかとして。

例えば虎の風貌。虎口(ここう)、虎爪(こそう)、虎牙(こが)、虎視(こし)、虎睛(こせい=目)、虎嘯(こしょう=吠(ほ)え声)、虎髯(こぜん=ひげ)、虎頭(ことう)…とうんざり。

それは人間を超えた不気味さだ。古典中の古典である『易』乾卦(けんか)には「雲は竜に従い、風は虎に従う」とある。すなわち「虎の行くところには必ず風が起こる」ということ。古代人は、自然現象を起こす神秘性を虎に感じていた。

それは、虎の諸能力(走る、闘う、発声など)が他動物を超えている畏怖の結果であろう。

そこからか、不思議な話がよく残されている。例えば武人が虎と出合い、矢を放つという伝説。結果はと言うと、放った矢が虎に命中し、虎が動かなくなる。そこで武人が近づいて見てみると、なんと虎ではなくて石であったという。しかも矢は石に突き刺さっていた。