遺伝子操作したクラゲから、動物の「脳」の進化の謎が見えてくる

受精卵は幼生に成長し、幼生は付着できる硬い表面を探して泳ぎ回る。その表面は自然界であれば岩だが、実験室では顕微鏡の硬いスライドが岩の代わりになる。

幼生はスライド上で小さなポリプに成長し、コロニーを形成する。このコロニーは原則として無限に増殖し、子どものクラゲを放出する。そして2~3週間かけて、わたしたちが「クラゲ」と呼ぶゼラチン状でシャワーキャップのような生物に成長する。「クラゲは花か何かのように見えますよ」と、ワイズボードは言う。「クラゲたちの仕事は外に出て“種”をまくことなのです」

研究チームの疑問

この段階で研究チームは、顕微鏡で観察できる生物を得る。クラゲが(ブラインシュリンプのすり身を)食べ、その体を折りたたむとき、そうした行動を司るニューロンが光るのだ。

「クラゲが行動している間、すべてのニューロンの活動を経時的に観察する高解像度の実験が可能になります」と、ワイズボードは説明する。つまり、この実験によって研究チームは、クラゲの脳の働きを実際に理解できるのである。そしてクラゲの脳は、人間が慣れ親しんでいる脳とは極めて異なっている。

クラゲは刺胞動物門というグループに属している。このグループにはイソギンチャクやサンゴも含まれる。こうした動物は6億年ほど前に人間の系統樹から分かれた。「人間はクラゲよりも、イカや蠕虫(ぜんちゅう)、ハエにずっと近い種なのです」と、ワイズボードは言う。

わたしたちが「脳」であると考えているものを、クラゲはもっていない。その代わり、クリティアは神経網というものをもっている。それはクリティアの「傘」の裏側を覆うニューロンのネットワークだ。

この神経網は中央制御されていない。クリティアは触手を失っても食べ物を探せる。クリティアの口は食べ物を与えられれば、いつまでも自力で生きていける。

研究チームの疑問は、クリティアには身体全体を調整したり、身体の異なる部分に直に情報を伝達したりする部分がないのに、食べ物を口に引き寄せるために身体を折りたたむような動きがどうやって可能になるのか、ということだ。この疑問こそ、ワイズボードと彼の同僚が今回の論文で研究したテーマである。

観察でわかったこと

研究チームは、摂食にかかわる分散型のニューロンネットワーク(ニューロンネットワーク全体の10%に相当する)を分離し、その活性化の状態を観察した。

「観察でわかったことのひとつは、クリティアの神経系がまさしくモジュラー型だったことです」と、ワイズボードは言う。神経網内での活動は研究チームが予想していたような拡散パターンではなく、階層として構造化されていた。クラゲの神経網は、これまでは見えなかった複数のくさび形で組織されており、その形はまるで切り分けたピザのようだった。

会員限定記事会員サービス詳細