聞きたい。

遠野遥さん 『教育』(河出書房新社・1760円)「正しさ」への疑問 寓話的に

一昨年の芥川賞受賞作『破局』で描いたドライで虚無的な男子大学生は鮮烈だった。初の長編となる本作ではその味わいを残しつつ、寓話(ぐうわ)的なディストピア(反理想郷)小説に挑んだ。「とっかかりは『Perfume(パフューム)』のミュージックビデオです。ビデオでは、メンバーの3人が部屋に閉じ込められて超能力の訓練みたいなことをしていた。それを見て、面白いし何か書けそうだなと」

作家の遠野遥さん
作家の遠野遥さん

「私(=勇人)」が寮生活を送る学校では、超能力の成績の良しあしでクラスが分かれ、部屋のグレードも変わる。成績向上のために推奨されるのが「一日三回以上オーガズムに達する」ことだ。だから勇人も、パートナーの真夏(まなつ)らとセックスし体も鍛える。先生や巡回の大男らの監視が行き渡り、生徒間の上下関係も厳格。隔絶されたいびつな空間で、癖のある生徒らとともに進級を目指す勇人の耳に、やがて学校閉鎖の噂が入ってくる…。

奇抜な設定なのに、現実と重なって見える瞬間がある。「未来でも過去でもないパラレルワールド(並行世界)ですね。一歩間違ったらこうなる可能性もあるかも…という」

ルールを決める先生はみな男性。男子生徒は学校の方針に従うが、女子生徒は押し付けられた「正しさ」に疑問を抱く。ちょっとは自分で考えないと、勇人が壊れちゃう―。真夏のそんな一言が示唆的だ。

「おかしな規範でも、その集団にいる人は従っているという現実はありますよね。与えられたルールに無批判に従っていると、支配する側が暴走していつの間にかおかしな世界になるかもしれない。そういう違和感や理不尽さを書きたい」

冷酷な世界が舞台だが、切なくて美しい情景がいくつも出てくる。「書いていたときの自分の気分が色濃く反映されている。気負わずに、いい意味で力が抜けて書けた」。この自然体が頼もしい。(海老沢類)

【プロフィル】遠野遥

とおの・はるか 作家。平成3年、神奈川県生まれ。令和元年に『改良』で文芸賞を受けてデビュー。翌2年に『破局』で芥川賞。本作は、昨年の野間文芸新人賞の候補作に選ばれた。