新型コロナウイルスの急激な感染拡大が深刻化している。感染力が強いオミクロン株への置き換わりが進み、昨年の「第5波」を大きく上回る勢いで感染者数の増加と地域拡大が起きている。
政府は7日、沖縄、広島、山口の3県を対象に、蔓延(まんえん)防止等重点措置の適用を正式に決定した。あまりにも鈍い対応といえる。
岸田文雄首相は直ちに、蔓延防止措置の全国への適用を決断すべきだ。その上で各自治体が対応を決めればいい。第5波までの経験から、感染防止対策は状況が悪化してからでは効果が弱まり、長期戦を余儀なくされることは分かっているはずだ。
首都圏、関西圏では爆発的な感染拡大を防ぐ手立てを早急に講じなければならない。現時点で感染者数の少ない地域では、市中での感染拡大を初期の段階で抑える対策を速やかに実施する態勢を整える必要がある。第6波を全国の脅威ととらえ「今、できることをやる」ために、政府の決断と支援が不可欠である。
感染速度が上がったウイルスに対し、政府は従来通り知事からの正式な要請を待ち、専門家への諮問を行った。それが法の建てつけでもある。
だが、沖縄県の玉城デニー知事が「第6波に突入した」との認識を示した4日に225人だった沖縄県の新規感染者は、7日には1400人を超えた。
政府の意思決定がウイルスの感染速度に追いつけない。デルタ株が猛威を振るった第5波でも指摘した政府のコロナ対策の重大な問題点であり、発令手続きの抜本的な見直しは十分可能なはずだ。
柔軟な機動的運用図れ
市町村単位で対象地域を絞ることができる蔓延防止措置を機動的に運用すれば、地域を限定し短期的に強い対策を講じることで、感染拡大を早い段階で抑え込める可能性がある。そのためには、これまでのコロナ対策を検証し、どんな状況でどの対策が効果があるかを検討する必要がある。「蔓延防止だから、飲食店には営業時間短縮(時短)を要請しよう」というように、従来の対策を漫然と踏襲するだけでは効果は期待できず、住民の理解も得られない。
飲食店の時短や営業自粛は「会食」による感染が大きな割合を占めていたときには一定の効果があったが、家庭や職場での感染が大半を占めた第5波では、顕著な効果は見られなかった。
コロナ対策に協力してきた飲食店を必要以上に苦しめないためにも時短ではなく人数制限などで、営業と感染防止の両立を目指す道を検討する必要がある。一方で会食に伴うクラスター(感染者集団)が発生し、早期に抑え込むことが必要、かつ可能だと判断される状況では、緊急事態宣言に至らなくても、営業自粛や行動制限の要請などを可能にすべきだ。
オミクロン株は重症化のリスクは高くないとされる。医療崩壊に至るような爆発的な感染拡大を防ぐことを最優先としたうえで、社会・経済活動の停滞を小さくすることも求められる。蔓延防止措置を機動的かつ柔軟に運用できるかどうかが、そのカギとなる。
再びの無策は許されぬ
海外の状況をみれば、第6波では重症の感染者数を一定のレベルに抑え込めたとしても、軽症や無症状の感染者数は第5波を超えることは避けられないだろう。第5波では自宅療養中の感染者の死亡が相次ぎ、家族や市中へ感染が広がる大きな要因になった。
一昨年春の第1波で自宅待機中の埼玉県の男性が死亡した際、厚生労働省は「宿泊施設での療養を原則とする」との方針を打ち出した。その原則は実行されず、問題点も解消しないままに第5波を迎え、悲惨な事態を招いた。そんな無策は許されない。
国、分科会をはじめとする専門家集団は責任の重さをかみしめ、第5波までの教訓を踏まえて、第6波を乗り切る知恵を絞るときである。ワクチン接種に効果があることが分かり、重症化を抑える飲み薬もできた。第5波までにはなかった明るい材料を、最大限に生かしたい。
そのために、宿泊療養施設の抜本的拡充や飲み薬の供給態勢の確立などの課題に、政府主導で取り組むべきである。
従来と同じ手続きを踏み従来通りの対策を呼びかけるだけでは、無能の誹(そし)りを免れない。