18歳の地図

(5)裁判員参加 「社会の一員」考える契機に

初めて裁判所に足を踏み入れたのは、職場の同僚をナイフで切りつけ、殺人未遂の罪に問われた男を裁く「裁判員」としての立場だった。

兵庫県内に住む女性(23)が大学2年の20歳だったときのことだ。20~60代の男女6人で構成された裁判員のうち最年少で、学生はただ一人。評議中、自分の意見が他の裁判員と一致していると、心の中で安堵(あんど)した。懲役8年の実刑判決を下したが、やましさに似た感情にさいなまれた。

「社会経験のない学生の自分に、人を裁く資格があったのか」

悩みを共有したくても、裁判に関心を持つような友人は周囲にいなかった。通っていた大学の教授の紹介で裁判員制度の周知に取り組む市民団体の活動に参加し、ようやく「自分にとって大きな時間だった」と感じられるようになった。

そんな経験を踏まえ、こう思う。「18歳だから意見が言えない、ということはないと思う。ただ、大学受験などを控えた高校生やアルバイト、1人暮らしの経験もない子たちが、裁判員を務めていいものなのか。正直、分からない」

司法に市民感覚を反映させる目的で、平成21年に導入された裁判員制度。職業裁判官以外の国民が刑事裁判に参加する仕組みは海外でも多くみられ、有罪無罪を判断する「陪審(ばいしん)制」、量刑まで決める「参審(さんしん)制」に主に分かれるが、裁判員制度は両方の特性を持つ。

参加年齢は参政権と連動し、20歳以上だった。28年に改正公選法が施行され、選挙権年齢は18歳以上となったが、少年法の成人年齢は20歳以上。裁く側と裁かれる側の年齢が異なることを懸念する声もあり、「当分の間、20歳以上」との付則が設けられ、裁判員年齢は据え置かれた。

その後、罪を犯した18、19歳を成年に準じた「特定少年」とし、厳罰化を図る改正少年法が昨年5月に成立。これに合わせて付則が削除され、同法が施行される今年4月から、裁判員年齢は18歳以上に引き下げられることになった。

だが、少年法改正が国会審議の段階で耳目を集めた一方、裁判員年齢の引き下げは、ほとんど話題にならなかった。市民団体「裁判員ネット」代表理事で弁護士の大城聡(47)は「誰にも知られずに決まってしまったというプロセスが、大きな問題だった」と嘆く。

制度の手続き上、実際に「18歳の裁判員」が誕生するのは来年以降。この間に若年層への法教育の充実や制度の周知が急がれる。従来の課題である裁判員の心理的負担の軽減策も、18、19歳の裁判員を踏まえた検討が求められる。

高知地検が今月、小中学校や高校の教員らを対象に裁判員制度に関する研修を急遽(きゅうきょ)、実施するのもこうした流れの一環だ。担当者は「教育現場に生かしてほしい」と話す。

「年齢が引き下げられても、正直、このままでは辞退者が増えるだけだ」。法務省幹部にはこんな危機感もある。

もともと、裁判員の辞退率の高さは問題となっている。最高裁によると、21年には53・1%だったが、右肩上がりを続け、令和2年には66・3%と、実に3人に2人が断っている。

その背景に、裁判員に課された「守秘義務」の存在を挙げる声は根強い。裁判員が評議内容や職務上知り得た秘密を漏らした場合、6月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられる。

裁判員制度の制度設計に携わった国学院大法学部教授の四宮啓(さとる)(69)は「『語れず、聞けない』ため、いい経験が社会で共有されていない」と、現行の守秘義務のあり方に疑問を呈し「事件関係者のプライバシーと評議で誰が何を言ったかの2点に絞るなど、最低限にすべきだ」と主張する。

一方で四宮は、今回の年齢引き下げ自体について「18、19歳の参加は裁判に一層の多様性を反映させ、質の高い裁判の実現に資する」と評価する。その上で、こう期待を寄せた。

「日本の若者が私的領域だけでなく、社会や公共について考える貴重な経験になる。それは司法だけでなく、日本の民主主義の質を高めることにもつながるはずだ」(敬称略)