「聞く力」より決断力 首相はプリンシプル持て 鹿間孝一

年頭記者会見を行う岸田文雄首相=4日、三重県伊勢市
年頭記者会見を行う岸田文雄首相=4日、三重県伊勢市

〈プリンシプルは何と訳してよいか知らない。原則とでもいうのか。日本も、ますます国際社会の一員となり、我々もますます外国人との接触が多くなる。(略)すべての言動にプリンシプルがはっきりしていることは絶対に必要である。〉

白洲次郎が雑誌「諸君」に「プリンシプルのない日本」を寄稿したのは50年以上も前である。

昭和26年9月に吉田茂首相の側近としてサンフランシスコ講和条約の調印式に随行した際、受諾演説の草稿が英文で書かれていたのにあきれ、「独立の演説を相手の言葉でするばかが、どこの世界にいるんだ!」と一喝して日本語に書き直させた。こんなエピソードに事欠かない。白洲はプリンシプルに忠実な人だった。

しかし、前述の寄稿では「残念ながら我々日本人の日常は、プリンシプル不在の言動の連続であるように思われる」としている。現在の岸田文雄政権を見たら、白洲の嘆きはより大きいに違いない。

子育て世帯への10万円の特別給付金は、5万円をクーポンにして消費の拡大につなげるとしていたのに、クーポン発行には多額の費用と手間がかかり、実務を行う自治体からの要望もあって、全額現金を認めた。

岸田首相は「聞く力」が自慢のようだが、いろんな意見が耳に入る度に、ふらついているように見える。時には耳をふさいで独断で「決める力」が必要だ。

とりわけ懸念されるのは中国に対する姿勢である。米国が呼び掛けた北京冬季五輪の「外交的ボイコット」は、「国益に照らして」となかなか態度を明らかにしなかった。結局、閣僚ら政府代表は派遣しないことにしたが、打算的な洞ケ峠で、同盟国の信頼を損なったのではないだろうか。

昨年末の臨時国会では、新疆ウイグル自治区などでの人権侵害に対する対中非難の決議の採決がまたも見送られた。

それでも岸田首相は、内閣支持率は上がっていると胸を張るだろう。だが、新型コロナウイルスの感染者が一時的に減少したのは、菅義偉前政権の施策によるものだ。衆院選も自民党が勝ったというより、共産党と共闘した立憲民主党が有権者にそっぽを向かれた。「勝ちに不思議の勝ちあり」で、時の運や敵失を実力だと勘違いしてはいけない。

コロナ禍の収束は見えず、今年も内外に難問が山積している。荒海を進む岸田丸は、プリンシプルがなければ、たちまち波にのまれてしまうだろう。

しかま・こういち 昭和26年生まれ。社会部遊軍記者が長く、社会部長、編集長、日本工業新聞社専務などを歴任。特別記者兼論説委員として8年7カ月にわたって夕刊1面コラム「湊町365」(産経ニュースでは「浪速風」)を執筆した。