池辺和弘・九電社長「リスクを負ってでもチャレンジ」

インタビューに応じる九州電力の池辺和弘社長
インタビューに応じる九州電力の池辺和弘社長

昨年は、令和2年10月に菅義偉首相(当時)が「2050年カーボンニュートラル」を掲げた直後に迎えただけに、世の中が怒涛(どとう)のごとく進んだ1年だった。

九州電力は4月、グループのビジョンを発表し、11月にはそこでの環境目標を上方修正し、さらに今後のアクションプランも公表した。プランには事業活動を通じた温室効果ガスの排出量を実質マイナスにするというチャレンジングな目標を盛り込んだ。

達成できるかどうか分からない目標を掲げることはリスクだ。しかし九電グループは今、ターニングポイントにある。サステナビリティに対する姿勢や、リスクを負ってでもチャレンジするという決意を示したことは意義があったと思っている。

今年はカーボンニュートラル社会の実現に向け、社会全体の電化推進や、われわれに強みがある水力、地熱に加え、洋上風力など再生可能エネルギーの開発を地域と共存しながら進めていきたい。グループの再エネ事業は体制強化も検討している。また、九州に点在する離島では既存発電所と再エネ、蓄電池を組み合わせ、自己完結した形で温室効果ガスの排出量を減らすことが大切だ。グループ会社の九電工がインドネシア・スンバ島で実証を進めているが、九電としても研究開発に乗り出す。

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昨年は、国内外でエネルギー政策をめぐる大きな動きがあった。国内では第6次エネルギー基本計画が閣議決定された。

策定時の議論では、梶山弘志経済産業相(当時)の判断が明確に示された。原子力発電に対する信頼が100%回復していないことと、リプレース(建て替え)や新増設の前にまずは(東日本大震災以降、長期停止中の)既存原発を再稼働させることが先だ、ということだ。その考えはよく分かる。

また、原発は「必要な規模を持続的に活用」とも位置付けられた。リプレースなどに関する記述が盛り込まれなかったが、良い計画になったといえるだろう。

国際的な視点からは、英国・グラスゴーで開かれた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で、2015年のパリ協定を具体的に実行するルールについて各国間で合意がなされた。

温室効果ガス削減を一足飛びに実現するのではなく、石炭から天然ガスへのトランジッション(移行)という時期は必要だ。COP26では、石炭火力発電所の問題などで各国個別の事情があると理解された。また、2国間クレジット制度(JCM)について道筋がついたことも大きい。温室効果ガス削減効果のある設備やサービスの提供を通じた削減量をクレジット(排出権)化し、2国間で分け合うJCMは日本はもちろん、九電グループにとっても打つ手が増えることになる。意義深いことだ。

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年明けの1日には欧州連合(EU)欧州委員会が、地球温暖化対策に貢献する経済活動を認定する「グリーン・リスト」に、原発や天然ガス火力発電を加える方針を発表した。われわれは従来、地球温暖化と戦うのなら、発電時に温室効果ガスを排出しない原発の役割は大きいと申し上げてきた。米国でも「クリーン電源」と位置付けられている。EUでもそのような方向で進んでいることは意義深いことだ。EUや米国での議論は日本にも〝輸入〟されてくるだろう。科学的、合理的事実に基づいた議論ができる素地は整いつつある。

温暖化への対応だけでなく、コストの観点からも原発は重要だ。想像を超えた資源価格の上昇に危機感を持っている。(供給能力が需要を下回ることによる)計画停電もそうだが、燃料費の増大による電気料金の高騰も、ゴルフで例えればOBのようなもので、避けなければならない。

会長を務める電気事業連合会でも未稼働炉の早期再稼働に向けた「再稼働加速タスクフォース」を発足させ、事業者間の相互支援を強化している。必要な審査を受けることは前提だが、再稼働は早めた方がいい。

九電としては、すでに4基を稼働させている事業者として、責任をもって安全・安定運転を積み重ね、信頼を得る努力を重ねなくてはならない。

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昨年4月に発表した「グループ経営ビジョン2030」では、国内電気事業以外で、連結経常利益の半分を稼ぐとした。しっかり、目標に向けたラインに乗っている。昨年に決定したアラブ首長国連邦での直流海底送電線開発など、今年も進出国の事情やニーズを踏まえ事業を拡大していく。

また、都市開発ではエネルギーやICT(情報通信技術)などのグループ総合力を武器に、社会課題やニーズを捉えた事業に取り組んでいく。九州大箱崎キャンパス跡地の再開発には注目している。あれだけ広大な土地に白地から設計図をかけることは画期的だ。グループの知見を最大限投入し、良い提案をしたいと考えている。

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電事連会長に就任してから3月で丸2年になる。

新型コロナウイルス禍と重なり、多くの業務をリモートで行えたことで、かなり助かった部分がある。ただ、再び対面の仕事が多くなってきた現在、社業のスケジュールがなかなか入れられない状況になっている。やはり、かなり疲れる。潮時だろうとは思う。

会長を2年やっていると、何を聞かれても答えられるようになっている、と思っている。もちろん勉強しないといけないが、能力は上がる。他の電力会社の社長さんにも、ぜひ経験していただきたい。

ただ、次期会長に手を挙げられる社長さんがおらず、「続投を」という声が上がればどうかと問われれば「(頼まれれば)嫌とは言わない九州男児」というのもあるかもしれない、と答えておきましょう。(中村雅和)

寅年の年頭、九州・山口の経済をリードする企業トップに今後の取り組みや意気込みを聞いた。


【池辺和弘(いけべ・かずひろ)】 昭和33年2月、大分県生まれ。東京大学法学部を卒業後、56年に九州電力に入社。松尾新吾社長(現特別顧問)秘書、執行役員経営企画本部副本部長、常務執行役員コーポレート戦略部門長などを経て平成30年6月から現職。令和2年3月から電気事業連合会会長を務める。