鑑賞眼

「義経千本桜(四の切)」 スペクタクル満載の澤瀉屋(おもだかや)型

「義経千本桜」で源九郎狐を演じる市川猿之助(松竹提供)
「義経千本桜」で源九郎狐を演じる市川猿之助(松竹提供)

市川猿之助は観客の期待を裏切らない役者だと改めて思った。読書家としても知られ、その高い博識に裏打ちされた作品への理解力と表現力には定評がある。昨年、PARCO劇場で上演した「藪原検校(やぶはらけんぎょう)」ではすごみのある演技で会場を圧倒していた。その猿之助が、2日から上演されている東京・歌舞伎座の「壽 初春大歌舞伎」第3部「義経千本桜(四の切)」で佐藤忠信(実は源九郎狐)を好演している。

「四の切」といえば、前半は狐忠信と本物の忠信の二役を演じ分けるところがみどころで、後半は「初音の鼓」になった両親に見せる子狐の情愛が見せ場。そして狐忠信が変貌自在に階段や床下から素早く姿を現したり、塀の中に消えたかと思うと一瞬で本物の忠信に早変わりして障子窓に現れたりと、歌舞伎の演出である「ケレン」の魅力にあふれる作品でもある。とくに澤瀉屋(おもだかや=市川猿之助一門の屋号)型は、最後に〝宙乗り〟も登場するなど、まさにスペクタクル満載の四の切が楽しめる。

猿之助は昨年12月、「十二月大歌舞伎」(歌舞伎座)の上演作「新版伊達の十役」で「政岡」「仁木弾正」といった女役から男役まで10役を早変わりで演じ分けた。そんな猿之助にとって「四の切」の狐忠信はうってつけで、狐忠信の俊敏さ、本物の忠信の重厚さ、をうまく演じ分けている。細い欄干を渡ったり、えび反りになったりと身軽な身のこなしだけでなく、舞台を縦横無尽に走って、跳ねて、とスロットル全開で動き回る。〝狐手(きつねて)〟や甲高い声で早口にしゃべる〝狐詞(きつねことば)〟などで、狐らしさも存分に表現していた。

46歳という実年齢を感じさせない猿之助の俊敏な動きに魅了され、軽妙なせりふ回しの〝狐詞〟も会場を沸かせていた。義経から「初音の鼓」をもらい、両親と離れ離れにならずにすむ、と鼓を転がしながら喜々として喜ぶ狐忠信の姿は愛らしく、胸を打たれた。ケレンの面白さだけでなく、狐の親子の情愛もしっかり描き出し、記憶に残る舞台だった。

27日まで、東京都中央区の歌舞伎座。チケットホン松竹、0570・000・489。(水沼啓子)

公演評「鑑賞眼」は毎週木曜日正午にアップします。