タサン志麻さんが伝える「レシピよりもっと大切なこと」

タサン志麻さんの自宅のキッチン。シンプルだが温かみが漂う(「ア・ターブル・シマ」より、扶桑社提供)
タサン志麻さんの自宅のキッチン。シンプルだが温かみが漂う(「ア・ターブル・シマ」より、扶桑社提供)

新しい年が明けた。この令和の時代、自粛によって家庭での料理がより身近な関心事になった。「伝説の家政婦」として知られるタサン志麻さん(42)は、料理が気楽になれば、人生はもっと楽しくなるという。伝えたいのは、「レシピより、もっと大切なこと」だ。(津川綾子)

丸ごと1本の大根にベーコンを巻き、オーブンで焼いた料理を手にした志麻さんが、表紙でほほ笑む。巻頭には鍋でおよそ2キロ作ったミートソース。

フレンチの料理人出身の志麻さんが昨秋創刊したパーソナルマガジン「à table SHIMA(ア・ターブル・シマ)」(扶桑社)には、フランスの家庭に定番のシンプルなごちそうレシピが詰まっている。3人の子育て中というタサン家の食卓に上るいつもの料理だ。

実は楽 フランスの家庭料理

志麻さんが「伝説の家政婦」と呼ばれた理由は、3時間で1週間分の常備菜を作り置きする手際と、フレンチ仕込みのおしゃれなおかずが人気だったから。しかしレシピにある食材は、どこのスーパーでも手に入るものばかり。カニ風味かまぼこも、しばしば具材となる。

「実は、フランスの人たちは、すごく楽に料理を作る」と志麻さん。調味料は基本的に塩とコショウ、調理はオーブンで焼くか、大鍋で煮るかだから、手順も洗い物も少なくて済む。でも食卓に出すと、華やか。

「食べること、楽しんでますか?」

「肉を焼いただけ、生ハムをお皿に並べただけとか、フランスの家庭では、いい意味でたいしたことのないものを食べています。時間をかけるのは食べるほうです。料理を囲んで1時間半くらい、ずっと会話しながら食べています」

料理がシンプルなら作ることに追われず、作った人も食卓で交流を楽しめる。約23年前、フランス留学中にホームパーティーで見た光景から、料理の本質はむしろ「楽しく食べる」ことにあると気づいた。

そんなフランス流のありようは、志麻さんが思春期の頃に毎日見つめた母の姿とは対照的だった。

「仕事から帰ると食事を作り、最後に食卓につくと、さっと食べて、すぐ洗い物を始める。お母さん、作ることは楽しんでいたけれど、食べることも楽しめていたのかな」

タサン志麻さんのパーソナルマガジン「à table SHIMA(ア・ターブル・シマ)」
タサン志麻さんのパーソナルマガジン「à table SHIMA(ア・ターブル・シマ)」

レシピ通りでなくていい

在宅勤務や外出自粛が広がった新型コロナウイルス禍では、男性や子供、今まで料理をしなかったという女性も、台所に立つことが増えた。そんなビギナーにとって、塩・コショウ程度でできるフランスの家庭料理は、「実は作りやすい」ものだ。

たとえば。

「材料はそろわなくてもいい。バジルがなければ、大葉にオリーブ油とニンニク、レモンを合わせたら、それっぽくなります。お酢がなかったら梅干しでも、レモン汁でも」

塩やしょうゆの銘柄、コンロの火力も鍋も、家庭ごとにさまざま。だから、「分量とか、何分煮るとかレシピにこだわることには、あまり意味がない」とまで言う。大切なのは、「これ作ってみようかな、って思ったら気軽にできること」だ。

名もなき料理でいい

食材をぱっと見て、「どうおいしく食べるか」から着想すると、料理はもっと楽しくなる、という。

「メインの食材を肉にするのか、魚にするのか、なければ缶詰、ソーセージか。次にそれを焼くか、煮るか、蒸すかと考えて、そこに味をのせていくんです。こんな風にすると、選択肢は広がるし、肩の力も抜けて楽しめます」

そうやってできるのは、おいしいけれど、名もない料理の数々。レパートリーの数を聞くと「数えていない」と返ってきた。

レシピがシンプルで簡単なほど、料理の「バリアフリー」は進む。いわば志麻さんはその旗振り役だ。

「極端に言えば、食べるものは、なんでもいい。みんなで食べる時間を、もっと楽しんで」

プロフィール

たさん・しま 昭和54年、山口県生まれ。大阪の調理師専門学校のフランス校を卒業後、仏料理店で約15年勤務。フランス人の夫との結婚を機に家事代行を始めると、予約が取れない「伝説の家政婦」と評判に。レシピ本など著書多数。