「クマイチ」簡単に 自転車そのまま紀勢線乗車

「サイクルトレイン」で移動するサイクリスト=和歌山県すさみ町
「サイクルトレイン」で移動するサイクリスト=和歌山県すさみ町

サイクリストが電車に自転車を持ち込んで乗車できる「サイクルトレイン」が好評だ。JR西日本が令和3年9~11月、和歌山県南部の紀勢線紀伊田辺-新宮間の普通電車で初めて実証実験したところ、利用したサイクリストは、予約・追加料金も不要で「使いやすい」と歓迎。JR西では同年12月以降、本格運用に切り替え、少なくとも4年末までは継続することを決めた。担当者は「利用減が進むローカル線活性化の起爆剤に」と新たな誘客効果に期待している。

近畿のサイクリングコースとしては、琵琶湖を一周する「ビワイチ」や、淡路島を一周する「アワイチ」が有名だが、和歌山県でも近年、紀伊半島南部を一周する「クマイチ」が、雄大な太平洋を眺めながら潮風を浴びて疾走できるコースとしてサイクリストの人気を集めている。

実証実験は、サイクリング振興をはかる和歌山県の協力も得てJR西が実施。区間は紀伊田辺-新宮間の約105キロ。予約不要で、運賃以外の追加料金もかからないが、自前で自転車の固定具を用意するなど、移動中の安全を確保する必要がある。

しかしサイクリストにとっては、従来のように乗車時、自転車を分解する必要がなく、そのまま自転車を押してホームから乗車できる手軽さがうけている。

レンタサイクルの環境を整備している同県すさみ町の観光協会では、実証実験に合わせ、町内のJR紀勢線・周参見-見老津間を自転車と電車で往復するツアーを企画したところ、地元だけでなく、県外からも数多くの人が参加した。

大阪府吹田市の会社員、松浦千佳さん(52)は「サイクリングで太平洋や山々の景色を楽しめ、電車内もゆっくり座れてよかった」。津市の会社員、吉岡毅さん(55)も「体力と相談しながら途中で予定変更できたり、往復で同じ道を走らなくてよかったりするのがありがたい」と歓迎する。

サイクリングのガイドを務めた向井佑弥さん(19)は「急な雨やけがといったトラブル時にも、『電車がある』と安心できるし、電車と組み合わせることでサイクリングの楽しみ方が広がる」と太鼓判を押す。

令和3年12月から本格運用

こうした好評ぶりは利用実績にも反映している。

JR西によると、3年11月末までの利用者は1250人(1日平均14人)。うち土日曜・祝日の利用が全体の約8割にあたる974人(32人)を占めた。

「サイクルトレイン」に自転車とともに乗車するサイクリスト=和歌山県すさみ町のJR見老津駅
「サイクルトレイン」に自転車とともに乗車するサイクリスト=和歌山県すさみ町のJR見老津駅

開始時から徐々に利用が増え、11月21日には最多の60人が利用。大きなトラブルもなかったという。

そのためJR西は3年12月1日から、本格運用に切り替えた。現在は平日は午前9時から終電まで、土日曜と祝日は終日、それぞれ実施している。

本格運用にあわせ、各駅には通学客らで混雑しやすい時間帯を記した時刻表を掲示し、スムーズな利用を促している。今後、ホーム上にサイクリスト向けの表示を増やしたり、駅構内の段差を解消するスロープを設置したりする計画だ。

ローカル線の新たな誘客へ

紀勢線では他のローカル線と同様、少子高齢化や過疎の影響で通勤・通学利用の減少傾向が続く。さらにコロナ禍による外出控えが減少傾向に拍車をかけている。

紀伊半島の海岸沿いを疾走するサイクリスト=和歌山県すさみ町
紀伊半島の海岸沿いを疾走するサイクリスト=和歌山県すさみ町

そんな中、JR西はサイクルトレインをローカル線の新たな誘客戦略の一つと位置づけている。

「予想以上にご利用いただいている。乗客の純増は経営的にも影響は大きい」とJR西の和歌山支社の松田彰久・副支社長。「ローカル線が生き残る手段の一つとして、より利用しやすいようサイクルトレインを育てていきたい」と意欲をみせる。(前川康二)