彩時記

着物 文様に寿ぎの心~1月・睦月~

「着物を着ると気持ちがしゃんとする」。晴れ着姿で渋谷の街を行く新成人の女性。見慣れた景色もいつもとは違って見えた(奈須稔撮影)
「着物を着ると気持ちがしゃんとする」。晴れ着姿で渋谷の街を行く新成人の女性。見慣れた景色もいつもとは違って見えた(奈須稔撮影)

いつもの街に、艶(あで)やかな和装が映える。初詣に初釜、ハイライトは10日の成人式。行事で着物に袖を通す人が増える年始ならではの光景だ。

今年、成人を迎えた東京都内在住の女子大学生(20)は、式に合わせ、袖に牡丹(ぼたん)が大輪の花を咲かせた振り袖を用意してもらった。着物の持つ魔法のような力を感じたと目を輝かせる。

着付けてもらい、鏡の前に立つと「『大人になったんだ』と実感しました。20歳の誕生日は、日付が変わっても何の感慨もなかったのに」。

成人の日は奈良時代以降、行われた「元服」という儀式が起源とされる。初めて大人仕様の着物に袖を通すことで、社会の仲間入りを果たした。

一方、コロナ禍で増えたのが母親の振り袖を借りる〝ママ振り〟だ。式典開催が不透明な中、あるものを生かしてコストを抑える選択も広がった。

街を歩けば、見知らぬ人から「きれいね」と声を掛けられる。何より、両親のうれしそうな顔を見て「親孝行ができて、私もうれしくなった」と、女子大学生は話す。

着る人も、周りの人も幸せな気持ちになるのは、文様に秘密がありそうだ。袖に描かれた牡丹は「百花の王」と呼ばれ、豊年の兆しとなる花で幸福や富貴の象徴とされる。

着物や帯には季節の移ろいを表す花鳥風月だけでなく、めでたさや縁起を担ぐ吉祥(きっしょう)文様がある。末広がりの扇は繁栄や開運、跳ねるウサギは飛躍、向上…という具合にさまざまな意味を秘めている。

人気漫画「鬼滅(きめつ)の刃」にも吉祥文様が登場する。ヒロイン、竈門(かまど)禰豆子(ねずこ)の着物は六角形の幾何学模様「麻の葉」。魔よけの意味と併せ、麻は生命力が強く、まっすぐ育つことから産着(うぶぎ)の定番柄にもなっている。

「着物の伝統的な文様は全て吉祥と結びついています。日本人は『見えない力』を大切にし、言葉で表現しなくても身にまとう柄だけで分かりあえる世界を築いていたんですね」

こう語る「丸や呉服店」(東京都大田区)の3代目店主、谷加奈子さんは、矢羽根柄の着物で新年を迎えた。「弓で射た矢は後戻りしない、という意味があります。コロナ禍が落ち着き、前を向いて歩んでいきたいと、願いを込めました」

腹が据わる-。着物にハマる男性は口をそろえる。帯を締める、へその下あたりの「丹田」は、東洋医学ではそこから元気や勇気が湧いてくると考えられている。着慣れると、自然に丹田に意識が向くようになるとか。

今年は〝千里行って千里帰る〟虎の年。着物の力を借りて勢いをつけるのも悪くない。

(榊聡美)