主要各紙の元日付社説は、世界的な新型コロナウイルス禍の広がりから2年が経過しようとする中で、現在の世界と日本が直面する危機に対する各紙の問題意識を浮き彫りにした内容となった。
コロナ禍からの脱却に向けて求められる対策をはじめとして、民主主義に対抗して強権主義を隠そうとしない中国の脅威、その民主主義の退潮に対する危機感、そして資本主義の将来などが幅広く提起された。
通常の「主張」に代えて論説委員長の署名論考を掲載した産経は、中国の脅威が高まり、日本を取り巻く安全保障環境が変化する中で、「問題は、あまりにも平和が長続きしたため、『いざ鎌倉』となった場合の備えが、まったくできていないことだ」と危機感を示した。そのうえで「憲法や現行法が有事対応の邪魔をしているのであれば、改めるのが政治家の使命である。国権の最高機関である国会は、今年こそ真剣に憲法改正を論議せねばならない」と訴えた。
読売も「国際変動の最大の要因が、中国の台頭にあることは明らかだ。世界第2の経済大国に成長した中国は、習近平政権の登場とともに、軍事大国化への行動を加速させている」と中国の脅威に警鐘を鳴らした。日本の対応についても「何もしなければ平和が保たれるなどというのは、危険な幻想である。平和を守るには何が必要か、その『平和の方法』を具体的に考え、行動しなければならない」と強調した。
これに対し、毎日は「民主政治とは本来、為政者が少数者の意見にも耳を傾け、議論を通じて合意を作り上げる営みだ。だが、安倍晋三・菅義偉両政権下で異論を排除する動きが強まり、国民の分断が深まった」と断じた。
そのうえで同紙は「国際的な世論調査によると、日本国民の政府に対する信頼度はコロナ前の43%から31%に急落した。『民主主義の危機』を語る岸田文雄首相の責任は重い」と指摘した。
産経とは異なる視点で憲法を論じたのは朝日だ。世界的に個人情報がデータとして利用されつつある中で、「日本国憲法の施行75年を迎える今年、データの大海であるデジタル空間のありようをめぐる議論を、より深めたい」と問題提起した。
個人情報の保護をめぐっては、憲法に明文化するように求める意見がある。だが、朝日は「憲法に書かなくても、個人情報保護法に『自己情報コントロール権』を明示すればいいという考え方もある」と指摘し、「国民の『知る権利』とのバランスに留意しつつ、データをめぐる自由と権利を整えていく必要がある」と求めた。
一方、資本主義の将来像を論じたのは日経である。「かつて資本主義の失敗は極端な思想や戦争を招いた。大恐慌後に全体主義や共産主義が伸長し第2次世界大戦、その後の東西冷戦につながった」と分析した。そのうえで「高齢化、デジタル化などの構造変化で制度疲労が目立つ資本主義のほころびを繕う不断の改革が、民主主義を守るためにも重要になっている」と論考した。
産経は「習近平国家主席が目指す『台湾統一の夢』を甘く見てはならない。香港での先例が示すように、『台湾有事』がごく近い将来起きる可能性は、かなりある」と強調し、「もしもの事態が起きた場合、台湾在留邦人や尖閣諸島を抱える先島諸島住民の避難をどうするのか一つとっても何の準備もできていない」と強い懸念を表明した。
国民の生命と財産を守るのは、国家としての当然の使命である。それはコロナ禍であろうと、海外有事であろうと全く同じだ。その備えがいま問われている。(井伊重之)
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■主要各紙の年頭の社説
【産経】
・年のはじめに
/さらば「おめでたい憲法」よ
【朝日】
・憲法75年の年明けに
/データの大海で人権を守る
【毎日】
・民主政治と市民社会
/つなぎ合う力が試される
【読売】
・災厄越え次の一歩踏み出そう
/「平和の方法」と行動が問われる
【日経】
・資本主義を鍛え直す年にしよう
【東京】
・年のはじめに考える
/「ほどほど」という叡智(いずれも1日付)