ビブリオエッセー

詩人はお料理好きの家庭人 「茨木のり子の献立帖」(平凡社コロナ・ブックス)

12月27日のビブリオエッセーで文末、茨木のり子さんの詩「倚(よ)りかからず」にふれておられたのを見て、ちょうど『茨木のり子の献立帖』を読み終えたところだったので、ぜひ投稿したくなった。

茨木さんの詩は「わたしが一番きれいだったとき」で知った。ガツンときた。「わたしが一番きれいだったとき/わたしの国は戦争で負けた/そんな馬鹿なことってあるものか…」。こぶしを握り、唇をかみしめ、このやりきれなさをどうしたらいいのかと、炎天下の町をひたすら歩く一人の女性。そんな絵が浮かんだ。

「倚りかからず」もそうだが茨木さんの詩を読むと背筋が伸びる。強く、清く、潔い。こんな強いメッセージを伝える人が料理好きの奥さんでもあったと知って意外な気もしたが、そんな一面を知ることができるのがこの本だ。

茨木さんの書き残した数々のレシピから再現した料理の紹介と日記で構成されている。「ポテトキャセロール」とか「ガスパチョ」とか、結構ハイカラなものにも挑戦しているなぁと思いながらレシピを見た。

料理を楽しんだ食堂と台所の平面図や「倚りかかるとすれば/それは/椅子の背もたれだけ」と書いた居間のイージーチェアをはじめ、詩人の生活をのぞくことができる調度や部屋の写真が興味深い。日記には、市役所へ行ったら「女のひと、無愛想、税金出してとても損したきもち、いたいお金なのに…」とちょっと愚痴っているのを発見。ここにも、日本を代表する詩人の家庭人としての普段の姿がある。

1950年代から1970年代が中心なので昭和の真ん中。あのころの暮らしにどっぷりと浸れるのも、この本の味なところだと思う。

奈良県生駒市 松ノ浜さくら(60)

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