朝晴れエッセー

カレンダー余話・1月4日

10年ほど昔のこと。仕事納めを翌日に控え勤務先で残務処理をしているところに、取引先の女性から電話が掛かってきた。

挨拶回りで配った販促用のカレンダーを、「もう1部、分けてください、自分の他にも欲しい人がいて抽選になり外れてしまった」とのことだった。

販促用といっても、私の会社のものは作りがしっかりしていて、ハワイなど観光地の定番から欧州の古城といった、世界各地の美しい四季折々の景色が12枚で綴(つづ)られており評判だった。

では年明け早々にお持ちしましょうと言うと、できれば今日欲しい、と言う。私はやりかけの仕事を気にしつつ、年の瀬のオフィス街を取引先へと急いだ。

ロビーに下りてきた女性にカレンダーを渡し、「よいお年を」とそそくさと立ち去ろうとする私を彼女は呼び止め、「じつは」とこんな打ち明け話をしてくれた。

女性は母親と2人暮らし。幼いころ父親を病気で亡くし、母親は生活のため身を粉にして働いた。暮らしは楽ではなかったが、おかげで学校も出してもらえた。

自分が就職してようやく生活が安定すると、母娘水入らずで少しぜいたくな旅行をするのが年に一度の楽しみになったのだそうだ。

彼女は思いがけないことを口にした。

「毎年このカレンダーの中から旅行の行き先を選んでいます」

「そんな大切なお話を」と言ったきり私は言葉が見つからなかった。女性が母親とこたつを囲み一枚一枚カレンダーをめくる、そんな光景を想像していた。


一宮学(57) 埼玉県所沢市