持続可能な社会に向けた環境保護の取り組みは、今年も加速する。日本が掲げる2050年までの温室効果ガスの排出量実質ゼロを目指した脱炭素への取り組み、海洋保全、遊休農地の活用など官民がさまざまな事業を展開。個人、家庭でも環境保護を意識した生活が求められそうだ。
遊休農地を茶畑に
大阪府熊取町は、遊休農地を再活用し自然環境の保全につなげる取り組みを今年から始める。昨年12月、飲料メーカーの伊藤園と包括連携協定を締結。遊休農地を茶畑として生まれ変わらせる。
町内では遊休農地が約1万6千平方メートルあり、雑草がはびこるなど管理が難しくなっている。そこで、茶の産地育成事業を大分県、宮崎県などの各地で行っている伊藤園と協力する。
茶畑を学校教育に活用するほか、茶を使ったスイーツの提供、町で生産されているブルーベリーと組み合わせた商品開発などのアイデアも。同社広報部は「お茶を〝かけ算〟に地域活性化に貢献したい」と話す。
同町が位置する泉州地域(大阪府南部)で茶の栽培は珍しい。伊藤園のスタッフが現地を視察して茶の生育に適した土地を検討しており、町の担当者は「熊取が新しい茶の産地になれば」と期待を込める。
漂着ごみでアートイベント
和歌山市沖の友ケ島で漂着する海洋ごみを調査している一般社団法人「加太・友ヶ島環境戦略研究会」(代表=千葉知世・大阪府立大学准教授)は、漂着ごみとアートを組み合わせたイベント「MIGO(ミーゴ)」に取り組んでいる。
研究会では令和2年9月、友ケ島で海洋ごみの本格調査を開始。その後も定期的に漂着ごみを収集し、種類ごとに分類。増加傾向などを調べている。
3年6月と11月には、環境啓発も兼ねたイベントとして、友ケ島を会場にMIGOを開催。「ごみ」を逆さにした造語で、海洋ごみのペットボトルにガラス片を詰めてマラカスのように打ち鳴らす音楽イベントや、色とりどりの漂着ごみで図形を描くアートイベントなどを実施した。
会のメンバーは「今後も定期的に開催し、参加者と楽しみながらごみ問題を考えたい」としている。
吉野山 脱炭素へEVバス
環境省と奈良県吉野町は、桜や紅葉の名所として知られる吉野山で昨年秋、電気自動車(EV)バスを周遊させる実証実験を実施した。二酸化炭素の削減や渋滞緩和の効果を検証した上で、観光スポット・吉野山での交通施策に生かす。
世界遺産にも登録されている吉野山は、桜や紅葉の観光シーズンになると、周辺道路がマイカーで混雑。観光客や住民のすぐそばを車が走ることもあり、事故防止が課題となっていた。
実証実験は、昨年11月の計6日間にわたって実施。EVバス2台を無料で、往復約5キロの道のりを走らせた。乗車した観光客らにアンケートをとったほか、一般車を走らせた場合と二酸化炭素の削減効果を比べるなどして役立てる。
吉野町の担当者は「今後貴重なデータをもとに、住民と話し合い、環境に配慮した吉野山をアピールしたい」と話している。
天橋立 アマモで水質浄化
日本三景の一つ、天橋立(京都府宮津市)の美化に地元の高校生が一役買っている。海草の一種で水質浄化作用のある「アマモ」の種を沿岸海域にまく取り組みで、授業で習得した潜水技能を生かした環境保全活動として注目されている。
活動は、宮津市の府立海洋高校海洋工学科海洋技術コースの3年生が平成23年から毎年実施。海中の窒素やリンなどを吸収・固定して水質を浄化し、魚の産卵や稚魚の生育の場にもなる〝アマモ場〟作りに取り組んでいる。
毎年6月に学校近くの宮津湾でアマモを採取。校内で約半年間熟成させた約8万粒のアマモの種を、11月に天橋立西側の阿蘇海の海底にまいている。令和2年度からは同海域でのアマモの生態を調べる潜水調査も開始。水藤章夫教諭は「学校で学んだ知識や技術を地域貢献にさらに役立てていきたい」としている。
琵琶湖 赤潮の危機教訓に
琵琶湖では近年、低酸素状態が続くなど気候変動の影響と考えられる現象が確認されている。そうした中、滋賀県は県内での二酸化炭素排出量(CO2)を2050(令和32)年までに実質ゼロにすることを目指す「しがCO2ネットゼロ」の取り組みを加速させている。
滋賀では1970年代に合成洗剤が要因となり、琵琶湖で赤潮が大発生したことを機に「石けん運動」が展開されるなど、琵琶湖の保全を原点にした環境保護活動が盛んだ。県内の各自治体も「脱炭素社会」に積極的で、草津市や近江八幡市などで取り組みを進めていく宣言が出されている。
今年3月に「ゼロカーボンシティー」を宣言予定の大津市は令和32年のゼロに先立ち、12年の排出量について、国と同じ平成25年度比46%減にする目標を掲げる。市の担当者は「再生エネルギーの導入など目標達成に向けて取り組みを進め、市民の意識を向上させていきたい」としている。
スプリング8 省電力化成功
世界最高性能の放射光施設「スプリング8」(兵庫県佐用町)の消費電力を2~3割削減させる試みに、理化学研究所などの共同研究グループが成功した。電力料金を年間約4億円節約できるほか、老朽化した設備の更新費用として見積もられていた28億円も不要となる見込みで、省エネとコスト削減につながっている。
スプリング8の蓄積リングに電子ビームを送り込む入射器として、隣接する世界最先端のX線自由電子レーザー施設「SACLA」の活用に成功。今回の成果につながった。
理研などは昨夏、播磨キャンパスにある両施設をSDGs(持続可能な開発目標)や「2050年カーボンニュートラル」に向けた研究活動を支援する施設に位置づけ。今回、自らの省エネルギー化や運営の効率化も実現させた。