ビル放火容疑者死亡 動機語る機会ついえる 状況証拠で真相解明へ

谷本盛雄容疑者
谷本盛雄容疑者

大阪市北区曽根崎新地のクリニック放火殺人事件で、重度の一酸化炭素中毒などで病院に搬送され、集中治療室(ICU)に入っていた谷本盛雄容疑者(61)が30日午後、死亡した。心肺停止からいったんは蘇生したが、意識は戻らずじまい。25人もの犠牲者を出した重大事件について、容疑者から動機が語られる機会は、これでついえた。大阪府警天満署捜査本部は今後、容疑者が残した犯行計画とみられるメモなど物証を積み重ねることで、真相解明を図っていくことになる。

捜査本部などが重視するのは、谷本容疑者の居住先から押収した犯行計画の一部とみられるメモなどの状況証拠だ。メモには「消火栓を塗る」「隙間をどうするか」などの文言がボールペンで書かれていた。メモの内容に符合するようにクリニックの消火栓の扉には補修材のようなものが塗られ、非常階段の扉は目張りされていた。谷本容疑者の計画性を裏づける物証の一つとみている。

クリニックの防犯カメラ映像には、放火のほぼ一部始終が写っていた。エレベーターで来院した谷本容疑者が両手に白い大きな紙袋を持参し、ガソリンとみられる液体をまき、オイルライターのようなもので着火する様子まで映像に記録されていた。谷本容疑者に逃げるそぶりはなく、非常階段の方へ逃げようとする被害者に体当たりする姿も記録され、捜査当局は多数を巻き添えにする「拡大自殺」との見方を強める。

容疑者の早期特定にあたっては、居住先と現場までの防犯カメラ映像を順番にたどる「リレー方式」捜査が奏功した。ビル火災の約30分前には、現場から約3・5キロ離れた住宅でぼやが発生。現場からガソリンのような油分が検出され、府警は2つの現場間の防犯カメラを集中的に捜査。自転車に紙袋を積んで現場に向かう男の姿を確認し、ビル前に放置された自転車が容疑者名で防犯登録されていたことを突き止めた。事件から2日後、府警は「被害者やご遺族が容疑者の特定を望んでいる」として逮捕状請求前に容疑者名を公表する異例の対応をとった。

一方、谷本容疑者は数年前から通院するようになったとみられるが、復旧作業を続けるクリニックの電子カルテでの裏付けは終わっておらず、通院状況や治療内容などは明確になっていない。また死亡した西澤弘太郎院長(49)とのトラブルも確認されていないという。

容疑者の死亡により真相解明は遠のいた形だが、捜査本部はクリニック関係者らへの聴取を重ね、動機の特定を進める方針だ。(小松大騎)