性ホルモンを学ぶ

⑥組織運営に不可欠 社会人が知るべき「女性の体調」基礎知識

職場でともに働く女性に特有の生理(月経)の悩みなどに寄り添いたいという男性は少なくない。ただ、正しく理解している男性は少数で、女性同士でも体調への影響は個人差がある。こうした知識の不足が相互理解を阻んでいる現状もありそうだ。組織のマネジメント上、無視できなくなっている女性特有の健康課題について、社会人として最低限知っておきたい知識とは何か。専門家に聞いた。

男性の「知識ある」は4割

女性ホルモン製剤などを扱う医薬品メーカー「あすか製薬」が令和2年に実施した調査によると、女性特有のつらい症状について理解したいと思っている男性は79・6%にのぼることが分かった。

ただ、月経の「知識がある」と回答した男性は4割程度。月経に関する情報源について、小中高の「学校教育」を選ばなかった男性は48・4%で、男性の2人に1人が月経を学校で学んだ記憶がないことが分かった。

女性特有の不調について理解を広める上で何がハードルとなっているのかを複数回答でたずねると、男女ともに「オープンな話題にしにくい風潮」が最も多かった。

労働損失として注目も

浜松町ハマサイトクリニックで婦人科診療に携わる吉形玲美医師は「学校現場では今だに、男子と女子が別々に性教育を受けるケースが多い。男性が女性に対して『月経』を話題にすることを恥ずかしく思ってしまう背景には、そうした性教育の分断もある」と話す。

さらに「女性同士でも不調の度合いには個人差があり、同性だからといって必ずしも分かり合えるとはいえない」と指摘。「月経に伴う重い症状がある人に寄り添えるようになるには、男女問わず正しい知識を身につけることが必要だ」と訴える。

また近年、企業の健康経営の観点からも、月経の知識を身につける必要性が問われている。

経済産業省が平成31年にまとめた資料「健康経営における女性の健康の取り組みについて」で紹介された試算によると、月経に伴う症状による1年間の労働損失は4911億円に上る。

管理職はもちろん、職場全体で知識を共有し、女性が働きやすい環境を整えることは、企業の生産性や業績向上の面でも無視できない課題になっているといえそうだ。

押さえておきたい「月経周期」

吉形医師が男女問わず特に知っておいてほしいと話すのは、「月経周期」と「月経トラブル」だ。

月経は、ほぼひと月の間隔でめぐってくる。ひと月の間に、2種類の女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)がそれぞれ作用し、4つの異なる期間が順番に訪れる。

【月経周期】

①月経期 妊娠がないと子宮内膜がはがれ、血液とともに排出される。子宮の収縮で強い痛みが生じる人も少なくない。その他、頭痛、胃痛、下痢なども生じやすい

②卵胞期 卵巣で卵子のもととなる卵胞が育ち始め、子宮内膜が厚くなる。心身ともに安定する

③排卵 卵胞から卵子が排出される。腹痛や頭痛などが起きる人もいる

④黄体期 妊娠に備え、子宮内膜がより厚くなる。イライラや抑鬱状態、便秘、むくみなどの強い不調は「PMS(月経前症候群)」と呼ばれる

「人によっては、心身が安定する『卵胞期』を除いたほとんどが不調というケースもあることを知っておいてほしいです」(吉形医師)

重い症状の影に病気も

また婦人科への通院が求められる「月経トラブル」には3種類あるという。

【月経トラブル】

①周期の乱れ 正常な周期は25~40日。短すぎたり、長すぎたりするのは、ホルモンバランスの乱れが主な原因。無排卵の可能性もあり、不妊にもつながる

②強い痛み 月経困難症、子宮内膜症など病気の可能性もある

③出血の量 量が多い場合、子宮内膜症や子宮筋腫などの可能性がある。少量でダラダラ続く場合は無排卵の可能性もある

吉形医師は「家庭や職場など、身近に月経がある世代の女性がいる人は、トラブルを抱えていることを打ち明けやすい環境を整えてほしい。風邪をひいたときのように、日常会話で月経の不調を話題にできるのが理想的」と話している。

人生の節目節目に、身体的、精神的な影響をもたらす「性ホルモン」の作用に注目が集まっています。性に関する科学的な知識をもつことは、豊かな人生につながります。家庭で、職場で、学校で-。生物学的に異なる身体的特徴をもつ男女が、互いの身体の仕組みを知り、不調や生きづらさに寄り添うことを目指した特集記事を随時配信していきます。

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