【ソウル=桜井紀雄】韓国最高裁が日本企業に賠償を命じたいわゆる徴用工訴訟で、南東部の大邱(テグ)地裁浦項(ポハン)支部は30日、原告側が差し押さえた日本製鉄(旧新日鉄住金)の資産の売却を命じる決定を出した。一連の訴訟での売却命令は9月の三菱重工業に続いて2例目。日本政府が「レッドライン(越えてはならない一線)」とみなす日本企業に実害が及ぶ事態にさらに一歩近づいた形だ。
最高裁は2018年10月、韓国人元徴用工4人の訴えに対し、日本製鉄に原告1人当たり1億ウォン(約970万円)を支払うよう命じる判決を確定させた。
日本側は1965年の日韓請求権協定で解決済みとの立場で支払いに応じず、裁判所はこれまでに、原告側の申請に応じて、日本製鉄が韓国鉄鋼大手ポスコと合弁で設立したリサイクル会社「PNR」の株式約19万4000株の差し押さえを認めていた。
日本製鉄側は即時抗告する見通し。1審で退けられても3審まで争うことができ、実際の売却までは時間がかかるとみられている。韓国紙は1~2年近くかかる可能性を伝えている。
韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領も資産売却は「望ましくない」との立場だが、韓国政府は日本側が受け入れられる解決策を提示できていない。韓国政府が賠償を肩代わりする案も浮上しているが、原告らが反発。大統領選の与党候補である李在明(イ・ジェミョン)前京畿道(キョンギド)知事は、判決の履行を日本側に求めており、李氏が当選すれば、解決が一層遠のく可能性がある。