なぜ他人を道連れに…「拡大自殺」から浮かぶ他責的傾向 北新地ビル放火

大阪市北区曽根崎新地のビル4階のクリニックが放火され25人が死亡した事件では、防犯カメラ映像などから、患者の谷本盛雄容疑者(61)が周到な準備を重ねて放火し、自らも炎の中へと向かった疑いが明らかになった。専門家の間では、強い自殺願望とともに他人を道連れにする「拡大自殺」との見方が浮上している。他人を巻き込む心理について、精神科医ら専門家に聞いた。

「典型的な無差別大量殺人であり、他人を巻き込みたい『拡大自殺』だ」

今回の事件についてこう指摘するのは、精神科医の片田珠美さん。自殺願望をもつ人のほとんどは一人で自殺するが、ごく一部に、一人で死ねず他人を道連れにしようとする人がいるという。

片田さんによると、一人で自殺する人と拡大自殺を図る人の〝分岐点〟は「本人の性格や考え方が、自責的傾向と他責的傾向のどちらが強いか」だという。他責的な考え方が強ければ、「自分の人生がうまくいかないのは『他人や社会のせい』と恨みを募らせ、復讐(ふくしゅう)願望を満たそうとして無差別殺人につながることがある」と話す。

これまでに発生した無差別大量殺人事件は、攻撃対象が社会全体に向かう場合と、特定の集団を狙う2つのケースに分類できるという。平成20年に起きた秋葉原無差別殺傷事件の場合、加藤智大(ともひろ)死刑囚は歩行者天国を訪れた不特定多数の人を攻撃することで「社会全体への復讐を果たそうとした」と分析。特定の集団を狙った事件としては、平成13年の大阪教育大付属池田小事件を挙げ、「エリートになりたかったがなれなかった宅間守元死刑囚の復讐心が、エリートの卵のように映った有名小学校の児童へと向かった」とみている。

では今回なぜ、谷本容疑者は自分が通院していたクリニックを狙ったのか。容疑者の容体は依然として重篤で、事情聴取など動機の解明が困難となっているため、片田さんは「あくまで憶測」と前置きしたうえでこう語る。

「家族との離別により孤立し、唯一のよすがであったクリニックで、自分の要求が受け入れられない何らかの出来事があったのではないか」。動機の解明には、受診の経過がわかるカルテの復旧がカギとみる。

特に精神科クリニックでは、長時間の相談や、処方薬の追加などを求める患者も少なくないというが、当然ながらすべての要求に応えられるわけではない。片田さんは「診療に落ち度や問題がなかったとしても、依存欲求が満たされない患者により、医師や病院が攻撃対象となることはある」と実情を語る。

自殺相談の現場では

「今から繁華街に行って大量に人を殺す」「誰かを殺して自分も死ぬ」

約40年前から自殺予防のため無料電話相談を行っているNPO法人「国際ビフレンダーズ大阪自殺防止センター」(大阪市中央区)には、こうした相談が年に1~2件程度寄せられている。

同センターの北條達人(たつひと)理事長(35)は「人間関係などにつまずくうちに被害者意識のようなものが増大し、社会への恨みや攻撃性に変化していくのでは」と推し量る。

同センターでは、相談員は相手の感情を否定せず、耳を傾けることを大切にしている。「過激な表現をするのは『そんなことをしでかすぐらい苦しいんだ』という心の訴えが裏側にはある」と北條さん。「根底にあるのは孤独。こんな自分を理解しようとしてくれていると感じれば気持ちは変化する」と話す。

北條氏は「私たちのような窓口は、自殺だけでなく事件を予防する役割も担っている。感情を吐き出して受け止めてもらえる場所があるんだと、多くの人に知ってもらいたい」と呼びかけた。