コロナ その時、

(41)2021年9月1日~ 緊急事態全面解除、迎えた政治の季節

薄氷を踏む思いで臨んだ東京五輪・パラリンピックが9月5日、幕を閉じた。就任以来、新型コロナウイルスに対応してきた菅義偉首相だったが、感染拡大に伴う医療体制の逼迫(ひっぱく)などを理由に厳しい世論にさらされ、とうとう退陣に追い込まれた。日本は政治の季節を迎えた。一方、ワクチン接種は順調に進み、緊急事態宣言などは月末までで全面解除される。

「もう少し経過を見ないといけない」―。9月1日、厚生労働省に新型コロナウイルス対策を助言する専門家組織の会合で、座長の脇田隆字(たかじ)氏はこう述べ、感染「第5波」のピーク越えについて慎重な姿勢を示した。

同日の全国の新規感染者は2万29人。東京は3000人を超え、神奈川でも1921人と依然、高水準にあり、全国の44都道府県で政府対策分科会が示すステージ4(爆発的感染拡大)相当だったからだ。

佳境迎えた東京パラリンピック

こうした感染状況の中で、東京パラリンピックは佳境を迎えていた。4日は、車いすテニス男子の国枝慎吾、バドミントン女子シングルス(車いすWH1)の里見紗李奈(さりな)が、それぞれ金メダルを獲得。開会式で「パラスポーツを通じて世界をより良い共生社会にする」と選手宣誓していた国枝の目には、涙が浮かんでいた。翌5日の大会最終日、女子マラソン(視覚障害T12)で道下美里(みちした・みさと)が頂点に立った。国立競技場のゴールテープを切る間際、雲間から陽光が差し込む。この瞬間は大会のハイライトとなり、五輪と合わせた国家的プロジェクトはその夜、幕を閉じた。

自民総裁選への出馬断念

盛り上がりを見せたパラリンピックと並行し、政治の世界は大きく動く。

約1年前の就任以来、コロナ対応に専心してきた菅義偉首相が3日、同月末で任期満了を迎える自民党総裁選への出馬断念を表明した。菅首相は前日まで再選を目指すと公言。しかし、夏の「第5波」では自宅療養中に死亡する患者が急増するなど、コロナ対策の進め方に対する世論の不信感はもはや拭いようがなかった。このままでは秋に控える衆院選への影響も明らかで、与党内での首相の求心力は日ごとに衰えていた。

「経済」も不穏な動きが表面化する。農林水産省は8日、国が輸入した小麦を製粉会社やしょうゆメーカーに売り渡す価格に関し、令和3年10月~4年3月分について、その前の半年分より主要銘柄平均で19.0%引き上げると発表した。家畜の飼料用向け需要の拡大で国際相場が高騰しているためで、その後のメーカーによる製品価格値上げにつながった。

ワクチン接種義務 各国で

世界では、感染力の強いインド由来の変異株「デルタ株」の感染拡大を受け、ワクチン接種や接種歴証明の提示を義務付ける動きが相次いでいた。

バイデン米大統領は9日、連邦政府の全職員・契約業者にワクチン接種を義務付ける大統領令に署名。国民向けの演説で、ワクチン接種は「自由や個人の選択の問題ではない。政府には国民を守る責任がある」と訴えた。

英北部スコットランドの行政府は9日、ナイトクラブなど娯楽施設の利用者や大規模イベントの来場者に対し、接種証明を10月1日から求めると発表。またフランスは15日から医療・福祉関係者に接種を義務付けたほか、イタリアは16日、接種や陰性証明の保持をすべての労働者に義務付けることを決定した。こうしたコロナに関するさまざまな義務化に対し、世界各地で抗議デモなどが頻発した。

「やりつくすには短い期間」

ワクチンの2回接種完了は13日までに人口の5割を突破。16日には政府対策分科会の尾身茂会長が第5波について、「新規感染者のピークは過ぎた」との見解を示す。海外で進む3回目接種は、医療従事者へ年内にも実施の見通しとなった。

こうした状況を受け、政府は28日、緊急事態宣言(19都道府県対象)と蔓延(まんえん)防止等重点措置(8県対象)の月末での全面解除を決定した。全国で適用地域がゼロとなるのは、半年ぶりのことだった。菅氏は首相として最後となったこの日の記者会見で「すべてをやりつくすには短い期間だった」と振り返った。

岸田文雄氏は29日、高市早苗、河野太郎、野田聖子各氏との戦いを制し、第27代自民党総裁に選出される。翌30日、長かった緊急事態宣言などが、ついに最終日を迎えた。

「コロナ その時、」は、ワクチン接種が進む中で緊急事態宣言が全面解除された9月末までを振り返ってきました。新たな変異株による感染状況は予断を許さず、今後も必要に応じて検証します。

(40)2021年8月9日~ 「第5波」感染ついに2万人超

(42)2021年10月1日~ 南アに「オミクロン株」出現

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